人生最強の女・完結編

このストーリーはある女性をモデルとして別のシチュエーションに登場させたものです。30%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

このストーリーは人生最強の女の続きになります

■ 知らされた事実
少し暖かい季節になった5月、ゴールデンウィークが過ぎていつものように会社に出勤していた。この会社に入ってもう1年になる。私はソフトウェアの開発をしながら社内のネットワークシステムを任されていた。少し疲れたので休憩室へ行く。いつものように社長秘書をしている藍原夏美とカスタマーサポート主任の植山順子が一緒にいた。「お疲れ様です!」と言って何気ない日常会話をする。


そういえば藍原夏美を”しとめた”のも1年ほど前のことだった。あれ以来、電話をしたり休日には時々二人で会って話をする仲になっていた。二人で話している時はお互いに心を開いて本音をむき出しにする。お互いの価値観が合う時は共感して、合わない時は尊重し合う、そんな深い仲になっていた。あまり人を信じないといっていた藍原夏美も、私のことは本当に信じてくれているようだ。私も今では藍原夏美のことを信じている。お互い大親友という形になって本当に良かったと思う。
ある日、いつものように休憩室に行くと藍原夏美が一人で座っていた。「お疲れ様です!今日は植山さん出張?」「酷い風邪でお休みしてるのよ」そうなんだと思いながら、藍原夏美の向かいの椅子に座った。「仕事、忙しそうね?」「今はシステムも任されてるから大変だよ」「そうなのね。アタシも来月のイベントの準備で忙しいのよ」「そういえば、藍原さん、俺をそのイベントに強制参加させたでしょ?」「あら、バレちゃってたのね?」「やっぱりそうだったのか!」「ふふふ・・・いいじゃない、たまにはアタシ達と何かするのも悪くないでしょ?」藍原夏美は来月、岐阜県で開催されるIT企業フェスティバルの幹事役をしているのだ。各部署から何名かイベントのサポート役を推薦して決めるのだが、そこに私が勝手に推薦されていたのだ。
私は「まったくもう・・・」と文句を言うと、藍原夏美は突然「ところでさ、カスタマーサポートの七瀬唯ちゃんって知ってるかしら?」と聞いてきた。「七瀬さんって、あのちょっとギャル系の女の子だよね?」「そうそう。あなた、あの子と話したことある?」「少しくらいはあるかな。サーバー室の隣の部屋でよく作業してるから、話すことはあったよ」「ふーん、少し話したことあるってだけなのね」「その七瀬さんがどうかしたの?」「アタシの勘だけど、あの子、あなたのこと気に入ってると思うのよね」「いやー、だって七瀬さんって俺よりかなり年下で、しかもイケイケのギャル系だよ。それはないと思うけどなあ」「そうかしら?年齢や見た目は関係ないと思うわよ」「それに根拠がないでしょ?」「根拠はあるわ。あなたに関する話をしてる時、なんとなくあの子の態度が変なのよ。必死に聞き耳立ててるって感じなのよね」「いや、でもそれだけで気があるっていうのも結論が早すぎじゃない?」「アタシにはなんとなくわかるの。来月のイベント会場の移動、あの子はあなたの車に乗ってもらうことになってるから、あなたも観察するといいわ」「そんなことまで手配してたのか!?」「ふふふ・・・さあ、あなたがどうするか楽しみだわ」「別に何もしないよ!」笑みを浮かべながら藍原夏美は休憩室を出ていった。
七瀬唯といえば茶髪でサラサラのロングヘアーにキリッとした目に背丈もそこそこありスタイルは抜群の女の子だ。イケイケのギャル系という感じで、パソコンや難しい話とは無縁のようだ。半年前にカスタマーサポートにアルバイトとして入社して以来、サーバー室の隣の部屋で作業しているところで何度か話をしたことはある。大した話をした覚えはないので、私を気に入っているというのは考えられない。しかし、あの鋭い洞察力を持った藍原夏美が言ってることなので気になってきた。それにしても藍原夏美は私が何かするのがそんなに楽しみなのか・・・

■ 観察と挑発
七瀬唯のことが気になりはじめた私は、一日に一度しているサーバー点検をするため、サーバー室へ行った。サーバー室はカスタマーサポートが作業している部屋の奥にあるのでどうしても通っていかなければならない。七瀬唯がいれば、少し話をしてみて挙動を観察してみようと思った。サーバー室の隣ではバタバタと段ボールや電子機器を片付けている二人組がいた。小柄でセミロングヘアーに大きな目をした佐伯恵理と七瀬唯の二人だった。私はサーバー室に入る前に「今日もバタバタと忙しそうだね」と声をかけてみた。二人とも「お疲れ様です!」といいながら作業をし続ける。挙動を見たかった私は「七瀬さん、そういえば来月のイベントの移動、同じ車で行くみたいなのでよろしく」と言ってみた。すると七瀬唯は「あ!そうなんですね。それは、その・・・よろしくお願いします」と少し言葉を詰まらせながら言った。私はもう少し観察してみたかったので「七瀬さんはイベントで何するの?」と聞いてみた。すると「ワタシは受付とチラシ配布です」と答えた。「アルバイトなのにイベント参加させられて大変だね」「いえいえ、これでも楽しみにしているんですよ!」「楽しみかな?面倒くさいだけだと思うけどなあ」「そんなことないです!みんなで何かできるし、それに・・・」「それに?」「い、いえ別にそれだけです」そういう会話をして私はサーバー室に入っていった。たしかに七瀬唯の挙動には何かありそうだが、私を気に入ってるというところまではハッキリしない。ただ、七瀬唯の「それに・・・」の後に何が続いたのかは気になった。とにかく今の段階では何もわからない。
その後、仕事をしながらも七瀬唯のことが少し気になっていた。すこし頭がボーっとしてきたので休憩室へ行くと、また藍原夏美が座っていた。「あら、どうしちゃったの?複雑な顔してるわね」「いや、少し頭がボーっとしてただけだよ」藍原夏美は笑みを浮かべながら「もしかして、七瀬唯ちゃんのことが気になりはじめたのかしら?」と言った。私は「そんなことはないよ。ただ、さっき少し話をしてみて少し気になった点があっただけだよ」と言った。「へえーその気になった点ってどういうところなの?」「なんとなく俺と話している時、言葉を詰まらせたり、イベント参加が楽しみだっていうだけど、他にも何かあるみたいな感じだったんだよ」「ほら、やっぱりそうじゃない!あきらかに何かを意識してるって感じだったでしょ?」「でも、だからといって俺を気に入ってるという確証にはならないよ」「そうかしら?ふふふ・・・あなたのことだから絶対にその真相を知りたくなるはずだわ」「真相がどうであっても俺は別にどうでもいいことだし・・・」「あなたは必ずに行動に出るはず。七瀬唯ちゃんを獲物にしちゃうのかしらね?楽しみだわ」「前から思ってたんだけど何が楽しみなんだよ?」「あなたが何を考えてどう行動していくのか、見てると楽しみなのよ」「また挑発的なことを・・・」「とにかく、真相を明らかにしてみるのはいいんんじゃない?」「そうはいっても直接本人から聞くわけにもいかないし、真相を明らかにさせるのは難しいよ」「そこはあなたの見せ場でしょ?楽しみにしてるわね」そういって藍原夏美は休憩室を出て行った。七瀬唯が私にどんな感情を抱いているのかはわからないが、何にしても私は恋愛感情を抱くことはないだろうと思った。
その後、何度か七瀬唯と話をしてみたが、これといって確証を得られるものはなかった。藍原夏美のように深い話ができる相手でもないので、適当な会話程度しかできない。ただ、相変わらず言葉を詰まらせたりしていたので挙動は少しおかしいと思うことはあったのだが、真相を明らかにさせられるものではなかった。

■ イベント開催
イベント開催の前日、勤務時間が終わってすぐに会場へ移動となった。藍原夏美達はすでにイベント準備のため移動していたが、私の車に乗るメンバーは直接ビジネスホテルに直行して朝早くからイベントの準備を行うことになっていた。私の車に乗るのは七瀬唯を含めて女性三人の合わせて四人だった。どういうわけか車の座席まで決まっていたようだ。運転手は私で七瀬唯は助手席、あとの二人の女性社員は後部座席となっていた。この席順はおそらく藍原夏美が仕掛けたに違いない。車を走らせながら車内で何気ない会話がはじまった。今のところ七瀬唯の挙動におかしなところはない。やはり考えすぎていたのか?そう思いながら高速道路を走らせていると話疲れたのか、車内はシーンっとした。しばらくして、私は七瀬唯のほうを見て「静かだと眠くなりそうだから、何か話でもしようか」と言った。七瀬唯は「何の話にしますか?」と聞いてきたので「例えば恋バナなんてどうかな?」と言ってみた。七瀬唯は「恋バナですか!?うーん、難しいな」と呟いた。私は「難しいかな?例えば、七瀬さんは今気になる人とかいる?」って直球で聞いてみた。すると七瀬唯は小声で「いるにはいます」と答えた。そして今度は七瀬唯が「逆に気になる人とかいますか?」と質問してきた。私は少し挙動を確認しようと思い「いるよ」と答えてみた。すると七瀬唯は「いるんですね・・・」と少し暗い表情で答えた。この会話の内容と七瀬唯の挙動と表情から考えて、私に気があるという可能性はゼロでなさそうだと思った。だからといってまだ完全に真相が明らかになったわけではない。いろいろ考えていると七瀬唯が「もしかして、その気になる人ってワタシの知ってる人じゃないですか?」と聞いてきた。私は「いやいや知らない人だよ」と答えた。「藍原さんかなって思ったんですけど、違うんですか?」「ええ?どうしてそう思うの?」「だって、なんか二人仲良さそうじゃないですか?」「藍原さんとは仲良くしてもらってるけど、そういう感じじゃないよ」「藍原さんあんな美人なのにそういう感じじゃないって・・・あやしいですねえ~」「いや、本当に違うから!」私は周りから藍原夏美と仲がいいと思われていたのかと少し動揺してしまった。しかし、七瀬唯の挙動が気になったが、気になる人がいると言ってしまったのは失敗だったかと後で後悔した。
ビジネスホテルに着いて、各自、予約した部屋に入っていった。私もビールを買って部屋に入り、一人で考えていた。もし七瀬唯が私のことを気になっているのであれば、その確証を得るには告白してもらうしか方法はない。もしくは私が何かしらの攻略法を考えて実行するというのも手だ。しかし私は七瀬唯に何の感情も抱いていないので攻略法なんて使うべきではない。やはり相手に告白させるしかないのか。しかし、告白させる方法なんて今まで考えたこともない。それに車の中で私には気になる人がいると言ってしまったので、告白なんてまずしてこないだろう。どうしたものか・・・変にこれ以上、気を持たせるようなことはできないけど、私が気になる人が会社の中にいる人だと言えばどうだろうか?藍原夏美だと思い込んでしまうかもしれないが、自分である可能性はあると思い込ませたら告白してくるんじゃないだろうか。とりあえず帰りの車の中でその話をしてみることにした。
イベント開催日、多くの人が訪れた。私はネットワークプリンターのブースで来客者に機能を説明をする担当だった。藍原夏美は会場の見回りと来客者の案内役、七瀬唯は受付でチラシを配布している。来客者が減ってきたところに藍原夏美がやってきた。「昨日は車の中でどうだった?何かわかったかしら?」「いろいろ仕組んだのは藍原さんだね?車内の座席まで計画してたのにはびっくりしたよ」「ふふふ・・・それもバレちゃったのね。それで何かわかったの?」「なんとなく、そんな気がしてきたけど、真相を明らかにするのは無理だよ。告白でもしてこられない限りね」「そうね。それで告白させる方法は考えてないの?」「そんな方法、難しいでしょ?」「でもあなたならできるんじゃない?」「俺は神でも超人でもないぞ」「ふふ・・・それはそうね。じゃあ獲物にして付き合っちゃえばいいんじゃない?」「いや、俺にその感情はないから無理だよ」「その気はないか・・・それは残念ね」藍原夏美は私をからかいにきたのかと思った。
イベントが終了して後片付けをして車に乗り込む。座席は行きと同じく助手席が七瀬唯だった。私は何気に「昨日、俺に気になる人がいるって言ったけど・・・」と七瀬唯に話しかけた。すると七瀬唯は「それがどうかしましたか?」と聞いてきた。「ちょっと言いにくい人で・・・」「言いにくい人って?」「その・・・会社にいる人だから・・・」「えっ?やっぱり藍原さんですか?」「いや、これ以上は何も言えないし、ここで名前なんて絶対に言えない人なんだよ」「それって、この中にいる人ってことですか?」「いや、だから、この場では絶対に言えない」「そうなんですね」この会話でどうなるのかはわからないが、七瀬唯が自分である可能性を匂わせておいた。

■ 告白そして裏に潜む真実
イベントが終わって3日ほど経ったある日、いつものようにサーバー室の点検に行くと、七瀬唯が一人で作業をしていた。「お疲れ様です」とお互いに挨拶をすると七瀬唯が私の前にやってきて「これ読んでおいてください」と手紙を渡された。すると七瀬唯は慌てて部屋を飛び出していった。サーバー室で手紙を読むと『友達からでいいので付き合ってもらえないですか?』と書いてあった。好きという言葉は書いてなかったが、間違いなく告白されたのだ。一体、七瀬唯は私のどこに惹かれたのかわからないが、私にはその気はない。しかし簡単に断ってしまうのもどうだろうか。七瀬唯と付き合うことを少し考えてみるか。そう思った私は、七瀬唯の席まで行って「考えさせてほしい」と言った。そして早速メッセンジャーで藍原夏美にこのことを伝えた。メッセンジャーで『やっぱりね。それで、どうするつもりなの?』『いや考えてはみるよ』『もう付き合っちゃえば?』『そんな簡単に付き合えないよ』『そっか』藍原夏美の返答は意外とさっぱりしていた。
帰宅中の電車の中でも私はあれこれ考えたが、やはり七瀬唯と付き合うことなんて考えられなかった。しかし、もし付き合うことになったらどうなるんだろう?何かを失う気がする。何か?何かって何だ?
家に帰ってベッドに横たわりながら、これまでのいきさつを整理してみた。藍原夏美が七瀬唯の気持ちを見抜いていた。そして先日のイベントで七瀬唯を助手席に座らせる計画までしていた。七瀬唯との恋バナをして最後は告白できるようにしてみた。そして手紙を渡されて告白された。今は「考えさせてほしい」といって保留の状態にしている。簡単な経緯はこんな感じだが、考えてみるとどうして藍原夏美はそこまでして七瀬唯と私をひっつけようとしているのだろうか。二人がどういう関係になったとしても藍原夏美に何のメリットもない。しかも今回は向こうから告白してきただけで、私は何の攻略法も使っていない。藍原夏美が楽しめそうな場面なんてどこにもないのだ。
それにもし付き合うことになったら何かを失ってしまうが、さっきも考えていたその何かとは何だろうか?とても大切なものを失ってしまう気がする。私は七瀬唯と付き合った前提で今後のことをシュミレーションしてみた。そしてあることに気が付いた。もし付き合うことになったら、私と藍原夏美の関係はどうなってしまうんだろうということ。七瀬唯に隠れて二人で話をすることなんてできなくなる。それだけは絶対に嫌だ。絶対に嫌?大親友を失うのが嫌なのか?付き合うことになっても大親友でいることはできるのに、何をこんなに拒絶しているんだ。藍原夏美と二人で話をすることは、私にとってもはやかけがえのないものになっている。それって大親友ってだけなのか?もっと深いものがあるんじゃないのか。信頼関係?絆?友情?私は藍原夏美に対する感情をもう一度改めてみることにした。今は好きという感情よりもっと大きな感情があるのではないか。大好き?いや違う。大好きなのは否定できないが、何かこうもっと大きな・・・その時、ふと思い浮かんだ。愛というキーワードだった。私は藍原夏美を愛しているんだ。すごく愛おしくかけがえのない存在になっているのだ。それには見返りを求めない。これは恋愛感情という軽いものではない。最初は挑発に乗って攻略して大親友という関係になって一年経った今だから言えることかもしれない。
ところで、逆に藍原夏美は私をどう思っているんだろうか。ここまでの関係になって何かしらの感情は芽生えてないのか。そもそも、セッティングまでしてどうして他の女の子とひっつけようとしたんだろうか。もしひっついてしまったら、私と二人で話ができなくなることぐらいわかるはず。私のことが面倒になったり嫌になったりしたのであれば、あの性格からしてハッキリ言ってくるはずだ。そう考えるとつじつまが合わないことをしていることになる。もしかして藍原夏美も私と同じ感情を持ってるとすれば・・・なるほど、そういうことか!
私の心の整理はついた。そして私の感情と裏に潜む真実が明らかになった。しかし、そうなるとまたあの強者と一戦交えないといけなくなる。今度は前の時のようなシンプルな方法ではダメだ。しかし、私は決意した。もう一度、あの強者をしとめてやると。

■ 新しい攻略法
次の日、本当は部外者の立ち入りは禁止だが、私は七瀬唯をサーバー室に入れた。「この前の件だけど」「は、はい・・・」「ごめんなさい。俺はやっぱ付き合うことできない」「そうですか・・・わかりました」「一つ聞いてもいいかな?俺のどこに惹かれたの?」「すごく似てるんです。ワタシが昔大好きだった人に・・・」「そうなんだ。その人もかなり年上だったの?」「はい。ワタシは結構年上好みなんです」「そうなんだね」「あの・・・やっぱり気になる人がいるからですよね?」「うん。かなり愛おしい人がいるんだよ」「わかりました。その人と頑張ってください」そう言って七瀬唯はサーバー室を出て行った。かなりギャル系だが、話してみると意外に女の子なんだと思わされた。さて、こっちは片付いた。あとはこのことを伝えて攻略法を考えるか。
私は断ったことを藍原夏美の席まで伝えに行った。「あなたに気がないなら仕方ないわね」という話で七瀬唯の件は終了した。そして私は「まだもう一つすることがある」と藍原夏美に言った。藍原夏美は不思議そうに「何かしら?」というので「もう一戦交える必要があるってことに気が付いたから」と言った。すると藍原夏美は「その顔は何か企んでるのね?アタシに関係することかしら?」と言った。私は「ああーそうだよ」と言って藍原夏美の席を離れた。
家に帰っていつものようにベッドに横たわり攻略法を考える。問題は藍原夏美をどうしたいのか?この前は女心を揺さぶって”ハートをしとめる”ということをしたが今回は違う。あくまで口説くのではなく、この愛おしいという気持ちを相手にぶつけて、お互いに愛し合っているんだと証明させないといけない。藍原夏美が私に愛が芽生えていると気が付いていれば話は早いかもしれないが、まだ完全にそれを確証することはできない。説得するという方法もあるが、何をどう説得すればいいのか?下手をすれば軽い恋愛感情のように思われる可能性すらある。それだけは避けなければならない。そもそも愛を証明させる攻略法など私の人生で初の試みなのだ。さて、どうしていくか。こちらがストレートに愛おしいと気持ちをぶつけても、それはただの告白にしかならない。その感情をぶつけるのは一番最後として、そこまでの過程が必要だ。藍原夏美が私と他の女の子とひっつけようとした理由についてはなんとなくわかっている。それはおそらく私という存在が彼女の中で何かしら変化したのか、それとも何か恐れてやったことなのか。どちらにしても大親友という関係以上の何かを感じていることは間違いない。それが何であるか気づかせればいいのだ。しかし、ただ話をしながら気づかせるのは難しい。
ふと私は本棚に並んでいる心理学の本に目がいった。精神分析、恋愛心理学、愛の深層心理、心理カウンセリングなど見ていく。久しぶりに開いた本だが、どうにも手掛かりはなかった。しかし、それと同時にあることを思い出した。それは以前、カウンセラーの学校で自己分析した時のこと。そういえば、あの時、無意識にある感情をえぐりだされた感じだったこと。あの方法を今回のことに応用できないか。藍原夏美の無意識の中にある感情を意識化させていけばいいのだ。質問形式になるが、そうしていくことで気づきに発展する。しかし、相手は人生最強ともいうべき強者なので、下手な質問をしても意図を見抜かれてしまうので、ここは注意しないといけない。まず、最初に話をどう切り出すかが問題だ。うーん、最初が思いつかない。いやちょっとまて!最初はシンプルでいいんではないか?お互いのことをどう思っているか話し合ってみようってことでいいのではないか。その後、質問形式にしていって無意識にある感情を意識化させて気づかせる。そして私の想いを強くぶつける。私は頭の中で何度もシュミレーションしてみた。よし!藍原夏美の無意識を意識化させる!この方法しかない。まさに私にとって新しい攻略法だ!
あとはどこでこの話をするかが問題だ。休憩室でもいいが、前のようにいいタイミングがあるとも思えない。だからといってファミリーレストランというのも雰囲気が悪い。こうなったら勤務終了後にどこかに呼び出すか。あまり人気のないところといえば・・・そうだ!ちょっとダメな場所だけど、あそこしかない!私はもう一度、藍原夏美をしとめてやると心に決めた。

■ 愛の証明
私はまずノー残業デーまで実行を待った。それまで何度も頭の中でシュミレーションしてきた。ついにその当日がやってきた。私は藍原夏美に『今日、勤務が終わったら、ちょっと内緒でサーバー室まできてくれないか?』とメッセンジャーで送った。すると『いいけど、何か話でもあるの?』と聞かれたので『大事な話があるから一人で来てほしい』といった。藍原夏美から『わかった』と返信がきた。これで準備は整った。あとは実行あるのみだ。またあの強者相手に一戦交えると思うとドキドキして仕方なかった。そして勤務終了後、ノー残業デーなのでみんな帰っていく。シーンッとなった会社内で私はテストサーバーがちょっとおかしいので、いろいろ確認してから帰りますといってサーバー室へ入った。まだ藍原夏美は来ていない。心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。ただ、前回と違って今回は落ち着かないといけない。こちらは絶対に感情的になってはいけない。感情のスイッチを入れるのは一番最後だ。しばらくするとサーバー室のドアが開き藍原夏美が入ってきた。私はサーバー室の鍵を閉めた。そして不思議そうな顔で「話って何かしら?」と藍原夏美は言った。
「藍原さん、俺は気が付いたんだよ」「気が付いたって何を?」「藍原さんの存在をどう感じてるかだけど、藍原さんは俺の存在をどう感じてる?」「どうって言われてもねえ・・・信頼できる大親友って感じかしらね」「本当にそれだけなのかな?」「うーん、改めてそれだけって言われると難しいわね」「藍原さん、俺と七瀬さんをひっつけようとしたけど、あれはどういうことだったの?」「あれは、つまり・・・あれよ、あなたがどうするか知りたかったから」「それ答えになってないよ。明らかにひっつけようとしてたよね?」「たしかにそうね。まあ、うまくいけばいいかなって思ったのよ」「どうしてうまくいけばいいなんて思ったの?」「それは、そろそろあなたも彼女できればいいかなって思ったのよ」この女はかなり厄介だな!もう少し質問攻めにするか。「俺に彼女ができればいいと思った理由は何?」「うーん、なんとなく・・・そう、思ったから」「俺に彼女ができるともう藍原さんと二人で話ができなくなるんだよ?それってどう思う?」「どう思うって、そうなったら仕方ないって思うかしら」「本当に仕方ないって思うだけ?」「たしかに淋しくなると思うわ。でも、それでもいいって思ったのよ」「淋しくなるのに、そうなってもいいって思う理由は何?」「それは・・・あなたが、幸せになってくれるならって・・・」藍原夏美は少し動揺している。さらに鋭く質問する。「本当にそう思う?」「うん、そうよ。そう思ってるわよ」「藍原さん、隠し事はいけないよ。俺が幸せになってくれるってだけの理由があったかもしれないけど、他にも意図があったよね?それはつまり、俺から離れようとした・・・どう?」「それは・・・あなたの存在が大きくなりすぎたから・・・っていえばいいかしら」「俺の存在が大きくなりすぎたってどういうこと?」「正直、そこがわからないのよ。このままだとあなたの存在に吸い込まれていく感じがしたのよ」「どんな風に吸い込まれていく感じがしたの?」「うーん、よくわからないわ。なんだか離れられなくなるような・・・」「離れられなくなるような存在ってどういう存在?」「そうね、かけがえのない存在かしら・・・」よし、もうすぐだ!「そこまで俺のこと想ってくれてるんだね。かけがえのない存在って言いかえれば何?友情?それとも?」「それとも・・・ねえ、アタシに何か言わせたいの?」「大親友という関係になってから一年、お互いに二文字の感情が芽生えたんじゃないかなって思うんだけど・・・どう思う?」「二文字の感情・・・あっ!」やっと気づいたようだ。私は感情のスイッチを入れた。そして、藍原夏美の前まで行って強く抱きしめた。「藍原さん!俺は・・・俺は藍原さんのこと愛おしいって思ってる。この想いは好きだとか恋だとかそういう言葉では伝えきれないんだよ!」少し沈黙が続いた。そして藍原夏美も両手でそっと抱きしめてきた。「アタシ・・・その・・・アタシもあなたのことが愛おしいって思うわ」そして、お互いに抱きしめ合いながら「愛してる」と言った。ついに人生最強ともいうべき藍原夏美をもう一度しとめることができた瞬間だった。

■ 愛の結末
体を離していくと、目の前には涙を流した藍原夏美の姿があった。「アタシ、怖かったのよ。あなたの存在が大きくなってこのままどうなっていくんだろうって思ったの」「俺もこの感情に気づいたのはこの前だった。まあ、七瀬さんのことがキッカケだったんだけどね」これでお互いに大親友という関係からもっと深い大きな関係へと発展したはず。「それで、今後の俺達の関係だけどさ、二人だけの秘密の関係ってのはどうかな?」「二人だけの秘密の関係ね?あなたらしい発想ね」「恋人同士がしているようなことをするのもよし、大親友からもっと深い関係になるのもよしって感じでどう?」「そうね。アタシはどんな関係でもいいわ。こうなった以上、そこはあなたに任せるわよ」こうして藍原夏美とはもっと親密な関係に発展していくことになった。
「ところでだけど、この前、あなたがもう一戦交えるって言ってたのはこのことだったの?」「そうだよ。もう一度、人生最強の女性とやりあうことになるとは思わなかったけどね」「またあなたにしてやられたわ」「いや、今回もかなり頭使わされたよ」「ずいぶん質問攻めにあったけど、あれがあなたの攻略法だったのかしら?」「無意識の感情を意識化させる心理的な方法を応用して、それを自分らしいやり方にしたんだよ」「でも、アタシの感情に愛があるってよく気づいたわね?」「だって、七瀬さんとひっつけようとしたのはどうしてなんだろう?って考えたら、絶対に今までにない何かの感情があるって思ったからだよ。別に嫌ってもなさそうだし、面倒になったわけでもなさそうなのにその行動は不自然だって思ったんだよ」「なるほどね。アタシ自身も気づいてなかった感情だったから本当に見事な方法だったわ」「まあどちらにしても人生最強の女性と愛し合うことができて俺は嬉しいよ」「人生最強の女と愛し合うか・・・ふふふ・・・そんなにアタシって最強なのね」「ああ、何度でも言ってやるよ。藍原夏美は俺の中で人生最強の女だよ。今まで出会ってきた女性の中でも一番だよ」
それから私と藍原夏美の関係は恋愛というより、何か特別で深い関係で結ばれていた。もちろん恋人同士のようなこともするようになったのだが、基本は今までのように二人で会って話をするということが多かった。私の中で藍原夏美という存在は見返りを求めない愛する人であった。藍原夏美も私に対して見返りを求めなかったように思う。ただ、お互いに「愛しています」と時々言うようになった。二人の関係は表面上、大親友という形でありながら、実際には愛し合う二人という関係になっていた。その二人の関係は二年近く続いた。誰にも気づかれることなく。
その後、私は過労で倒れて会社を退職することになった。私はもう独立という道を選択した。藍原夏美は「今後はお互いの道を進んでいきましょう」と言った。私も「うん、お互いもう十分に愛し合ったし、今後はお互いの道を進んでいこうと思う」といって同意した。藍原夏美との関係を続けていくこともできたが、私の人生の中で独立の道を選んだということはお互いに別の道を進んでいくということ。退職してから少しの間は藍原夏美と話をすることもあったが、次第に会うこともなくなり連絡することもなくなっていった。まさに自然消滅といってもいいが、もうお互いに愛し合うことができたし、信頼関係も構築し続けた。こんなに愛し合うことができる人はこの先現れるのだろうか。私は部屋の中でもう一度叫んだ。「藍原夏美は俺にとって人生最強の強者だった!でもその人生最強の女性と愛し合うことができた!」と・・・藍原夏美の存在は一生忘れることはないだろう。彼女は今どこで何をしてるんだろうか。