数年の想い
このストーリーは80%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。
それは私が中学2年生の頃、学校のスキー合宿がきっかけだった。当時、私のクラス内では北川正宗がクラスメイトの笹倉佳奈に片想いをしている事がすごく話題になっていた。合宿に行くバスの中でも、クラスの男子がその話題で盛りあがっていた。正宗自身も本当に佳奈の事が好きだったのは事実であったが、自分の好きな女の子の話をされて恥ずかしく照れくさがっていた。私も悪い癖でそういう話に興味を持っていた。
合宿中、私は正宗に「本当に佳奈のことが好きなのか」とひやかしで聞いてみた。すると「本当に好きだけど佳奈には嫌がられて避けられている」と正宗は答えた。私はひやかし程度で質問したのに、正宗は真剣に答えたので少し動揺した。それと同時に佳奈が本当に嫌がっているのか、噂が広まり恥ずかしさで避けているものなのかという疑問が残った。次に私はひやかしではなく本気で「告白する気はあるのか」と聞いてみると、「そんな勇気はない」、「このままでいい」と正宗は答えた。そこで私は人の恋愛に顔をつっこみたがる悪い癖がでた。私は「合宿中に、それとなく佳奈に本音を聞いてみる」というと、正宗は「ちょっと怖いけどお願いする」と答えた。
佳奈はクラス内でモテモテという感じではなかったが、目が大きくクリッとしており、優等生で成績もよく、誰に対しても優しい雰囲気をもった女の子であった。私も佳奈とはクラス内で近くの席になったりした時、よく授業中にノートを見せてもらったり、適当な話はしていた。
合宿2日目の夜、自由時間の20:00に「ちょっと聞きたいことがある」という理由で佳奈を呼び出した。そこは合宿所になっているホテルのあまり人のいない階段の踊り場だった。佳奈は時間どおりに来た。早速私は「正宗の噂」について単刀直入に聞いてみた。すると佳奈は「正直、困っている」、「その気はない」、「逆に噂になって正宗に迷惑をかけているのではないか!?」と答えた。正宗には可能性がないことを知った私は少し困惑した。すると今度は佳奈のほうから「正宗は本気なのか?」と逆に質問されてしまった。ここで本気だとストレートに言うことを避けた私は「それは知らない」と答えた。そして「そもそもどうして呼び出したのか」という質問をされた。さすがは優等生だけあったのかするどい質問だった。私はとっさに「正宗も同じように佳奈に迷惑をかけているのではないかと心配していたから」と答えた。
正宗の話は終わり、私と佳奈は自由時間が終わるまで話続けた。その時の会話は時間を忘れるぐらい楽しかったことを覚えている。そして私は勝手に”佳奈とは気が合う”ように思えたのもこの時だった。
自由時間が終わり、部屋に戻るとその旨を正宗に報告した。正宗は落ち込むどころか「これで吹っ切れた」というが、私は「告白しなくていいのか?」と尋ねてみると「答えが見えているからいい」とのことだった。しかし噂のこともあるので正宗の気持ちは素直に伝えるべきではないかと提案したところ、私に伝えておいてほしいとのことだった。まあ、結果がわかっているのに、本人を目の前にして告白するのは正宗にとって辛いことなのであろう。私は冗談で「想い出に写真を一枚撮ってこようか?1枚300円で売ってあげる」と言ってみた。すると正宗は「写真はほしい!300円でも買う」と真剣に言うのだ。写真はどうなるかわからないが、とにかく私はもう一度佳奈を呼び出すことにした。
合宿最終日の夜、また自由時間の20:00に佳奈を呼び出した。正宗の本心を佳奈に伝えると「悪いけど、私にその気はない」と言った。そして正宗が佳奈ことは諦めるということも伝えておいた。佳奈はホッとした表情をして少し間があいた。そういえば写真で300円儲けることを思い出した私は「正宗が好きになった人の想い出として、佳奈の写真を一枚ほしがっているから撮らせてほしい」とダメもとで聞いてみた。すると少し恥ずかし気な表情になった佳奈は「そういうことならいい」ということで一枚撮らせてもらった。後にこの写真は私にとって300円以上の価値になるとは知る由もなかった。
写真を撮った後、私は佳奈と自由時間が終わるまで話をしていた。佳奈と話していると本当に楽しく、時間があっという間に過ぎていくのである。だんだん、自分の心が佳奈に吸い込まれていくのがわかる。これだとミイラ取りがミイラになっている感じだ。そう、私は佳奈を意識し始めていっていた。
合宿が終わり、帰りの深夜バスに乗る。佳奈の斜め後ろが私の席だったのだが、バスの中ではちらちらと佳奈のほう見ていた。佳奈は寝ていたのだが、自分の心が支配されている感じがしていた。頭の中が佳奈の事でいっぱいになっているのだ。結局帰りのバスの中ではあまり寝付けなかったことを覚えている。
合宿が終わった2日後・・・
佳奈の写真を現像して正宗に渡したのだが、密かに私も同じ写真を部屋においていた。そう、もう私は佳奈の事が好きになっていたことに気づいたのだ。正宗には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、しかしここからどうすればいいのかわからない。日がたつにつれて、とにかく佳奈が好きでたまらなくなっていった。授業中も佳奈のことばかり考え、佳奈が話しかけてくると嬉しくて心臓がドキドキしたりしていた。そして、そんな自分の気持ちをついに正宗に打ち明けることを決心した。
私は正直に佳奈のことが好きになってしまったと正宗に話すと「そうなったのは自分にも責任がある」、「もう終わったことだから気にしなくていい」、「佳奈に対しては自由にすればいい」と言ってくれた。私は正宗を裏切っている感じがしていたのだが、そう言ってくれると有難い。しかしどうしたものか途方に暮れていた。
ある日、私は同じクラスで仲のよかった奥山大介に佳奈に対する気持ちと悩みを相談をしていた。もう自分がどうすればいいかわからない、このまま諦めればいいのか、告白するにも正宗の事があって変な感じもするなど、色々と大介に相談をしていた。そんな悩みが2週間続き、3月に入ったある日の昼休みのこと。その日は1年生が早く帰宅していたこともあって、1年生の教室には誰もいなかったのである。大介と私は二人して、その1年生の教室のベランダで話をしていた。 もう3年生になるのかとつぶやきながら、私はもう諦めようかと大介に話した。大介は「悩んだ結果、それでいいのか?」と尋ねてくる。しかし、最近ではもう佳奈を見ているだけで辛くなってきているのだ。私は「もう佳奈のことで悩む事に疲れてきた」と言うと大介は「すっきりさせたほうが楽になる」と言う。
1分ほど間があった・・・
大介は「トイレに行ってくるから、そこで待っていてほしい」とその場を去った。5分ほど経っても大介は戻ってこなかったのでおかしいと思っていた時、いきなりベランダのドアが開いた。なんとそのドアから現れたのは佳奈だったのだ。私は驚いたと同時に、直感でやられたと思った。大介は佳奈を探し出して、ここに来るように言ったに違いない。佳奈は大介にここに行くように言われて来たと言った。そして佳奈は「打ち明けたい事って何?」と聞いてきた。これは大介にしてやられたが、心の準備ができてない。しかし、もう告白するしかないのだ。覚悟を決めた私は、自分の気持ちをぶつけよう、今まで悩んでいた自分の事を伝えようと思った。 まず私は「スキー合宿での話は楽しかった」と話を切り出した。佳奈は「私も楽しかった」と答える。そして私は「あの時からずっと佳奈のことが好きになってずっと悩んでいた。付き合ってほしい」と告白した。佳奈はかなり驚いた表情をしたが「今すぐ答えは出せない」、「考えさせてほしい」、「3年生になるまでに答えを出す」と言った。
私は告白したことですっきりというか、なにやら開放された気分になった。そして数日後には何か心の中がスッキリした感じがした。悩み続けた事がいきなり終わったからかもしれない。あとあと考えてみると告白してよかったと思った。このまま告白しないで悩んでいて終わってしまったら、後悔していただろうと今でも思う。
1週間後・・・
教室の前にいると、佳奈が「これが私の答えだから」と言って手紙を渡しに来た。そしてその手紙の内容は以下のように書いてあった。
佳奈の手紙(一部変更あり):
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私の事を好きになってくれてありがとう。
私はあなたが嫌いとかじゃなくて本当に悩みました。
でも私にはずっと前から好きな人がいて、どうしてもその人が忘れられません。
だから、私はあなたと付き合う事はできません。
本当にごめんなさい。
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私は、この手紙を読んで最初は諦めよう、忘れようとしていた。しかし、3日経ってもどうしても忘れられなかった。私は、ダメもとでもう一回アタックしようと、下記の内容の手紙を佳奈に渡した。
私が佳奈に書いた手紙(一部変更あり):
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ごめんなさい。諦めよう、忘れようと思っても忘れられないほど好きで手紙書いた。
好きな人がいるのもわかった。
でも、その人の事忘れさせれさせるほど、佳奈の事大切にする、楽しくする。
だから、もう一度考え直して欲しい。
もう佳奈の事が好きで好きでたまらない。
もう一度だけチャンスをお願いします。
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この手紙を佳奈が受け取ったのは2年生終業式の4日前だった。渡してから2日間は返事がなかった。3日目になんと佳奈から私に「今日一緒に学校帰ろう?」と誘ってきたのだった。その日、佳奈と一緒に帰ることになったが、私も佳奈も何も話さなかった。ただドキドキしていたのと、お互いに何かを意識している事だけはわかっていた。そして私と佳奈の家の分かれ道の場所で再び佳奈から手紙を渡された。 そして最後に佳奈は「いろいろとありがとう」と言ってその場を去って行った。最後の言葉を聞いた私はもう手紙の内容はわかっていたが、一応、以下の内容となる。
二度目の佳奈の手紙(一部変更あり):
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こんなに私の事を好きになってくれて、私は本当に幸せです。
ありがとう、ありがとう、本当に嬉しいです。
すっごく悩みました。楽しく幸せにしてくれるのだろうって
思いました。でも、ごめんなさい。
好きな人の事もあるけど、私はやっぱりあなたとは付き合えません。
私はこれから3年生になってから絶対に合格したい高校があって、
受験に専念したいのです。
あなたも受験なんだし、私の事は忘れてお互いがんばろう。
こんなに好きになってくれたあなたのことは一生忘れないと思います。
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私はこの手紙を読んで、佳奈のことは本当に諦めて忘れようと決心したのである。3年生になり佳奈とは別のクラスになった。自然と佳奈のことは忘れていたつもりだが、偶然に会ったりすると胸がドキッとする。その後、私は恋愛はするものの、ときどき佳奈のことが心のどこかでチラつく。そういう佳奈に対する想いはその後8年間続くことになる。そして、私の女の子に対する考え方がしばらく屈折していくこととなる。
14年後・・・
私は仕事帰りに5歳ぐらいの男の子を抱いた佳奈を見た。佳奈によく似たかわいい子だった。それを見た私は複雑な気持ちではあったが、佳奈も自分の人生を歩いてるんだなと思った。