モテる女の癖

このストーリーは60%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

このストーリーは心理的によく似た二人の女性をモデルに性格をミックスさせて、そのうち一人の女性が巻き起こした出来事を語る。今回は私とその女性側の立場にたったものである。チャットのメンバーなので男性の名前はハンドルネームで表現する。

モテる女の癖

当時、私はあるインターネットのチャットサイトに出入りしていた。河原聡子とはそのチャットで出会った。最初はたわいのない文字だけの会話をしていたのだが、私が聡子の相談に乗ったことがきっかけで電話で話をすることが多くなった。聡子は見た目がそこまでモテるタイプだと思えなかったが、チャットサイトの男性メンバーからかなり人気があった。その人気の秘訣は聡子の男性に対する接し方、話し方にあった。相手の男性が趣味の話をすれば親身になって聞いて、時には「楽しそう」と言ってみたりする。相手が自分の考え方や価値観の話をすれば「頼もしい」や「男らしい」などと言ったりする。相手が自慢話をすれば否定はせず「すごい」と連発して言ったりする。相手が知識豊富な話をすれば「物知りだね」などと言って才能を褒めたりする。そういった聡子の”話を聴く姿勢”は悪いわけではないのだが、表面上、話を合わせてるだけにすぎなかった。聡子はとにかくいろんな男性に良いように思われたかったのだ。そういう男性に対する接し方をしていた聡子は一部の女性から嫌われていたが、私はやっていることがわかっていたものの別に嫌いではなかった。

私の「本音はどうなの?」という聡子への質問が口癖のようになっていた。建て前で褒められたりすることを嫌っていた私は、最初から聡子に本音で話せと言っていた。聡子は「この人には隠せない」と思い、私に対しては本心をむき出しに話をするようになった。チャットの男性の話なんて本当はどうでもいいのだが、自分を良いように思われたい聡子は、どうしてもチャットで本音を出すことはできなかった。

ある日、聡子はチャット内でミストという男性から告白された。ミストとは文字だけの会話だったが、彼は真剣にそれ以上の関係を求めてきた。いきなりの告白だったので「少し考える」と言ってその場はしのげた。しかし聡子は非常に困っったことになったと思った。ここで下手に断ってしまうとミストはもうチャットに来なくなったりしないか、周りに嫌われてしまわないかと考えたのだ。しかし聡子にその気はない。ましてや文字だけの会話しかしたことがない相手だ。ここは”うまくかわす方法”がないものか、ただそれだけを模索していた。このことを相談してみようかと悩んでいたが、相談してもストレートに断るべきと言われるだけかもしれない。聡子にとって断り方よりそのことをうやむやにしてしまう方法がベストだった。しかし、どれだけ悩んでもその方法は見つからなかった。ついに聡子は私に相談することにした。

聡子は私にミストに告白されたことを話した。もちろんその気がないことも含めて。そして「下手に断ると可哀そう」、「断るとチャット内の関係もおかしくなりそう」という理由で私にどうすればいいのか聞いてみた。私は聡子の理由の裏側には必ず何かがあるのだと確信していた。まず「本当に可哀そうだと思っているのか?」と聞いてみた。聡子はここで嘘を言っても見破られると感じたので、素直に「思っていない」と答えた。次に私はチャット内の関係がおかしくなるということについて「そんなことで関係が崩れるわけがない」と言った。聡子は「たしかにそうだけど・・・」と答えたが、周りから良いように思われ続けたいというのが本心だった。その本心だけはたとえ相手が私でも絶対に言うことはできない。私はそもそも「どうして断れないのか?」という核心的な質問をしてみた。聡子は本心が別にあるので「断れったあとが怖い」としか答えられなかった。私はあれこれ断るように言ったが、聡子の返答は「でも」、「だけど」ばかりだった。話をしているうちに”かわす方法”、具体的には無かったことにする方法を聡子は探しているのではないかと私は感じた。そこで私は「どちらにしても断る以外の方法はない」と言った。聡子は「断る言葉を考えてみる」といってこの日は終わった。

数日後、聡子はミストに「まだそこまで仲良くないし、今はそれ以上関係になれない」と言って断った。するとミストはあっさりと「わかった」と答えた。聡子なりの精一杯の断り方だったのだが、それを聞いた私は少し怒った。私は「まだとか、今はとか今後を期待させるようなことを言うな」と聡子に言った。当然、ミストに今後の可能性はないに等しいのだ。それを聞いた聡子は心の中で「しまった」と初めて気づいた。この断り方だとミストを諦めさせているというより、逆に頑張らせてしまうからだ。そして再びミストに告白されて、今度はもっと厄介なことになってしまうかもしれない。事実、その後のミストは前にも増して聡子に話しかけるようになっていた。一旦断ったので落ち着いてはいたが、聡子はミストのことがだんだん面倒になってきた。

ところで、聡子の男性に対する接し方だが、やっていることはホステスと変わらない。こんなことを続けているとミストだけでなく他からも告白される可能性がある。そう思った私は「男性の接し方を改めるべき」と聡子に言った。それを聞いた聡子は私の言ってることがよくわからなかった。ただ、男性に合わせて話をしているだけなのに何を改めるべきなんだろう。何もいけないことをしているわけではない。沈黙していた聡子が理解していないと感じた私はさらに「相手(男性)を持ち上げる話し方をするな」、「ミストと同じように他からも告白されるかもしれない」と言った。聡子は別にそれを意識をして男性と話しているわけではなかったので自分がやっていることがよくわかっていなかった。ただ、周りから良いように思われたいという一心だけなのだ。ただ、私が言いたかったのは”その気もないのにいい顔するな”ということだった。

そしてチャットのオフ会(実際に会って話す会)がやってきた・・・

聡子も私も参加した。そしてミストまで参加することになった。オフ会にはチャットメンバーの男女数名が集まり、みんなでカラオケに行くことになった。人気のあった聡子の周りには数名の男性が群がる。私は少し離れた席に座り、チラチラと聡子のほうを見ていた。聡子はチャットで話す姿勢と同じように男性達と接していた。ある男性がトイレに立って聡子の隣の席が空くと、すぐ狙ったかのように別の男性がそこに座る。ミストはなかなか聡子の隣にいけないようだったがおどおどしていたのは明白だった。そんな人気のある聡子をみていた女性達はあまり良く思っていなかった雰囲気だった。私は黙っていたが聡子はやりすぎだと思い始めた。そんな時、隙をみた聡子は私の隣にやってきた。どうも私が黙っているので気になっていた。「なんか怒ってる?」と話しかける聡子、私は「いい加減にしろ」と一言。さすがの聡子もその意味はわかっていたが、自分の癖は抜けない。私に「ごめん」と言ってその場を去った。その後、オフ会は居酒屋での飲み会になったが、そこでは聡子はマイペースで男性達と会話を続けていた。

そんな中・・・

私がチャットで仲良くしていたジェイという男性が参加していた。ジェイは女性との会話が得意で褒め上手、チャットの一部の女性から人気があった。しかしジェイには彼女がいる。しかも女癖があまりよろしくないのだ。そんなジェイが席を移動して聡子と話すことになった。この二人は本心がズレているものの、お互いが異性にしていることに共感していた。ジェイは聡子に自分と同じ境遇で似た者同士だと言う。聡子にとって今まで出会ったことのないタイプで、自分と共感できる理想的な男性だった。二人は何やら意気投合したようで、聡子とジェイはお互いに興味を持ち始めた。早速、聡子はジェイと連絡先の交換をすることになった。

その後、オフ会が終わって聡子から電話がかかってきた。聡子はジェイに気があることを私に話した。私はジェイの女癖の悪さについて知っていたので「ジェイは辞めたほうがいい」と忠告した。しかし、聡子からすると自分と共通点があるジェイの存在は捨てることはできない。それにジェイは「彼女と別れる」と言ってくれているのだ。そのことについても聡子は話したが、私はそんな簡単にジェイが彼女と別れるとは思わなかった。私が何を言っても「でも」、「だけど」が続く。聡子は完全にジェイを信じきってしまっている。何を言っても無駄だとわかった私は「そんな簡単ではない」とだけ聡子に言っておいた。聡子には自信があった。これだけ共感できる相手で運命的なものを感じる。ジェイも自分と同じように感じているはず。そしてジェイと聡子は二人だけで逢う約束をしたのだ。

聡子とジェイは二人で逢ってジェイの家で過ごすことになった。話が合うし気も合う二人。楽しい時間が過ごせている。聡子はジェイとならどうなってもいいと思った。そして初めて二人で逢ったその日、ついに体の関係まで発展していった。ところが、二人で逢うまでに時間があったものの、ジェイはまだ彼女と別れていない。数日前、ジェイは勢いに任せて彼女に別れ話をしたようだが、彼女のほうは別れようとしない。それどころか、別れ話をしたはずなのにジェイは彼女と一緒に寝ていたのだ。この中途半端な状態で聡子に手を出したのだ。聡子がそのことを知らされるのは、その後まもなくのことだった。突然、ジェイが「彼女と別れることはできない」と言い出した。聡子は「約束が違う」と言ったが、「ごめん、やっぱできない」というジェイ。聡子は裏切られた気分になってしまった。かなりの自信があったせいか、ひどく落胆した。さすがにジェイとは関係を続けていけないと思ったが、簡単にジェイと離れていくこともできない。何度も「何やってるんだろう」と自分に問いかける。聡子はかなり悩むことになった。

私に相談するしかないと思った聡子は批判されることを覚悟で電話をした。全ての事情を聴いた私は「予想通りの展開だ」と聡子に言った。さすがの聡子も今回ばかりはかなり反省しているようだった。私は聡子を批判しなかったが「人間関係を簡単に考えすぎる」ということだけは言っておいた。聡子は終わったことは仕方がないと思っていたが、今後どうすればいいのかわからなかった。今後のジェイとの関係について相談された私は「きっぱり諦めて関係を断ち切るしかない」と言った。聡子はわかってはいるけど辞められない感じであった。しかし私が言った通り、これ以上関係を続けていくことはできない。もう電話もしない、二人で逢ったりもしない、そうするしかないと思ったが、あと一歩が踏み出せない。そういう聡子の心境が見えていた私は「これからも聡子の話は聴くから今を乗り切れ」と言った。聡子は「がんばってみる」と少し元気がでたようだった。ところが、それから数日経ったある日、その一歩を踏み出すきっかけともいうべき出来事が起こる。

ジェイがまた他の女性に手を出したようだ。それもチャットメンバーなのだ。ジェイと聡子が怪しい関係であったこと、そして今回手を出した女性のことは、たちまちチャット内に広がってしまった。そしてジェイはあるチャットメンバーの男性から「ナンパ目的ならチャットに来ないでほしい」と言われた。ジェイは必死に言い訳をするが、彼女がいるくせに他の女性に手を出していると言い返される。そのうち他の男性達もジェイに同じように言うようになった。実は私だけが気づいていたのだが、ジェイに言ってる男性達のほとんどが、もともと聡子に好意を抱いていたのだ。そういう意味では聡子を独占された悔しさもあっての発言だったのかもしれない。それを知った聡子も、さすがに失望してしまったのだが、嫌いにはなれなかった。結局、ジェイはチャットから追い出されることになった。

ジェイの一件以来、聡子は大人しくなるかと思ったが、男性への接し方は変わらなかった。ある日、私は少し酔っぱらっていた勢いもあって聡子に電話をして核心的なことを言った。「本音じゃなく建て前だけの自分を周りから気に入られて悲しくないのか」、「自分が本当に気に入った人に振り向いてもらえないと意味がない」、「本音が話せない相手との未来はない」、「結局、淋しいだけじゃないか」などと言った。聡子はうなずくだけで何も言えなかった。次の日、私は少し言い過ぎたと聡子に謝ると「事実だから」と言いながらも、核心を突かれた聡子は落ち込んでいた。その後、聡子はこれまでのようにチャットの男性とあまり話をしなくなった。

2ヶ月経ったある日、聡子は私に「本音を受け入れてくれる人はあなたしかいない」、「自分が本当に好きになれる人が誰なのか気づいた」、「二人で逢わないか?」と言ってきた。聡子は精神的に私に依存していたのだ。私にとって聡子は可愛いが、恋愛感情はなかった。私は聡子にとって話を聴いて相談に乗ってくれる人にしかすぎない。逆に聡子は私のことを何も知らないのだ。これ以上の関係になったとしても、聡子がただ甘えてくるだけになる。そう思った私は「本音で向き合える相手を探せ」、「新しい人を見つけるべき」と聡子に強く言った。聡子は悲しそうな感じで「わかった」と答えた。その後、聡子と私の電話の回数は減った。

それから数か月後・・・

突然、聡子から「彼氏ができた」と連絡がきた。年下の相手だが本音で話せてお互いに相談しあう仲だという。私は「よかったね」と言った。聡子は幸せそうだった。私は最後に「自分達の事は自分達で解決させいくような関係を目指せ」と聡子に言っておいた。その後、どうなっていったのか私は知らないが、聡子が少しは成長したと思っていた。

聡子の男性への接し方は、モテる女性の条件でありながら無意識にしていたことだった。おそらく一人になる淋しさゆえ、そうせざるをえなかったのだと思う。本音で話すと嫌われるかもしれないという意識も強かったのだろう。周りに良いように見られることは安心感につながっていた。ところが、その行動は面倒なことを抱えるだけで、得られるものは何もなかった。自分ではどうすることもできず、最後には本音で私に相談をする。そんな聡子が私には可愛かった。