このストーリーはフィクションであり登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。
■ 突然の相談事
寒い冬が終わろうとしていた3月上旬。専門学校を卒業してからもうすぐ一年になる。私は特別研究生として学校に残り、パソコン講師のアルバイトをしていた。今年こそは就職と思っていたが、まだ業務実績が足らないので、このまましばらくアルバイトを続けていくことにした。
ある日、突然、私の携帯に電話がかかってきた。「お久しぶり!同じクラスだった川瀬だけど覚えてるか?」「川瀬か、卒業以来になるか。電話してくるなんて珍しいな。どうした?」電話をかけてきたのは同じクラスだった川瀬太一郎で、身長はそこまで高くないががっちりした体型で、少し長い茶髪で見た目はチャラチャラした感じだが、話してみると意外と内気なところがあるタイプだ。同じクラスだった時、ときどき話をしていたが、特別仲良くしていたというわけでもなかった。「今度のクラス会だけどよ、お前も参加するだろ?」クラス会というが同窓会みたいなものだ。「ああ、俺も参加するけど、その確認か?」「違う違う。あのさ、同じクラスだった朝倉紗耶香って覚えてるか?」「覚えてるよ。川瀬、お前が気になってた女の子だよな?」「げっお前、知ってたのかよ!」「そら、お前の行動見てたらわかるって!」「結局俺、卒業まで朝倉に何もできなかったんだけどよ、今度のクラス会でアプローチしようって思ってるのさ」朝倉紗耶香とは茶髪でサラサラのロングヘアー、背丈は低くグラマーで少し目の大きな女の子。内気なのか無口で自分からは話しかけないタイプの女の子だ。「なるほど。それは頑張れって思うけど、それを言うためにわざわざ電話してきたのか?」「いや、そこで相談なんだけどよ・・・アプローチってどうすればいいのかなって思ってさ」「なんで俺にそんな相談してくるの?」「いや、お前、恋愛心理学とか勉強してたでしょ?たしか卒論も恋愛系だったよな?だからなんかいいアドバイスでももらえないかなって思ったんだよ」「まあ、それはそうだけど、朝倉のことだったら桧山に相談したほうがよくない?朝倉と桧山って大の仲良しだったし、今も仲良くしてるみたいだよ」「今も仲良くってなんでお前、そんなこと知ってるんだ?」「俺、特別研究生として学校に残ってるからそういう情報はちらほら入ってくるんだよ」「そっか、でも俺、桧山って苦手なんだよな。それに突然電話するのも変だろ?」「それを言うなら川瀬が俺に電話してきたのも変だろ」「いや、桧山は女の子だし、刺々しい感じが俺苦手なんだよ。とにかく何かアドバイスとかねえか?」朝倉紗耶香と大の仲良しである桧山美乃梨とは背丈が160cmほどで、キリっとした目に眼鏡をかけて、ふんわりした黒髪にいつもお団子ヘアーにしているスレンダーな女の子、人にズバズバと言ってしまうタイプだ。たしかに桧山美乃梨を苦手な人も少なくないだろう。しかし、私は学園祭の時に彼女と同じ班になり結構仲良くなったので苦手ではなかった。「アドバイスか・・・いきなり言われてもね・・・ちょっと考えてみるよ」「わかった。じゃあなにか思いついたら連絡くれよ。よろしく頼むわ!」そういって一旦、電話を切った。
クラス会まであと一週間ちょっとなので、あまり時間がない。朝倉紗耶香とは話したことはあったが、あまり自分から話しかけようとしない無口な女の子だ。全く話をしないというわけではないが、こちらがリードして話していかないといけない。川瀬太一郎がアプローチするのであれば、話しかけていくしかない。それは簡単だが、こっちのことばかり話しても会話が途切れてしまう可能性が高い。それなら朝倉紗耶香に話をさせればいいのか。無口なのは話題があればいいのだ。その話題は彼女が話しやすい内容であればいい。あとは仲良しである桧山美乃梨にも協力してもらえばいい。その方法でいけばいいか!普通の恋愛テクニックをちょっと使うくらいでそこまで難しいことでもなさそうだと思った。
次の日、私は川瀬太一郎に電話をした。「朝倉へのアプローチだけど、彼女の趣味や好きな音楽、映画、休日は何してるのか、そういうことを聞いて話題を盛り上げるのがいいと思う。極力、自分の話をせずに、朝倉中心の話題をして盛り上げるのがいいと思うけど、できそうか?」「極力自分の話をせず朝倉中心の話か・・・わかったよ!それでやってみるわ」「あと最後に連絡先の交換だけは忘れないようにね」「ああ、それは絶対だよな!」「あと俺のほうから桧山にも協力してもらえるようにお願いしておくから」「わかった。ありがとな!」
いつものように難しく考えだした攻略法ではないが、今のところ、これ以上の方法は考えられなかった。
■ クラス会
クラス会当日、参加者はどうやら十八名のようだ。地方に就職が決まった人は家が遠いので不参加になっていたが、朝倉紗耶香と桧山美乃梨は参加していた。予約した店の座敷部屋にみんな座り、注文したドリンクが運ばれてきた後、担任だった鏡山先生が乾杯の音頭をとった。参加者があちこちで話をしてざわざわしている。川瀬太一郎は少し席が離れた朝倉紗耶香と話をするタイミングを伺っている。子羊を助けるがのごとく、私は朝倉紗耶香の隣に座っていた桧山美乃梨に声をかけて「ちょっとこっちの席にきてくれない?」と呼び出した。そして、席が空いた瞬間、川瀬太一郎は朝倉紗耶香の隣の席に座って話しかけていた。私の隣の席に座っていた人の間に桧山美乃梨を座らせて小声で話をした。「川瀬のことなんだけど、どうも朝倉のことが気に入ってるみたいなんだ」「へえーそうなんだ」「前に相談されて協力しようと思ってるんだけど、桧山も協力してくれないかな?」「協力か・・・でも紗耶香は難しいよ。川瀬には可哀そうだけど、諦めたほうがいいと思うわよ」「そこは俺もサポートするつもりだし、協力といっても情報くれるとかだけでもいいのでお願いできないかな?」「うーん・・・正直、ワタシには何もできないけど、話くらいなら聞いてもいいかな。でもオススメはしないって言っておくわ」「そっか、わかった。なんかあったらいつでも連絡してきて!」「わかったわ」私は学園祭の時に桧山美乃梨と連絡先の交換していたのでお互いに電話番号やメールアドレスは知っていた。川瀬太一郎のほうを見てみると、意外と会話が盛り上がっているように見えた。必死に何かを話しかけて、無口な朝倉紗耶香もそれなりに話しているように見えた。しかし桧山美乃梨が朝倉紗耶香は難しいから諦めたほうがいいと言ってたことが気になった。もしかすると俺達の知らない何かがあるのかもしれない。とりあえず今は様子見といったところだろう。
しばらく時間が経った頃、私も少しだけ朝倉紗耶香と話がしたかったので、タイミングを見計らって川瀬太一郎に席を譲ってもらった。「朝倉、久しぶりだね。卒業以来だけど今は何の仕事してるの?」「事務系かな」「事務系かあ・・・仕事は大変?」「そうでもないけど、年末は大変だったよ」「まあ年末はどこも忙しい時期だからね。今も一人暮らし?」「うん。卒業してからもずっと変わってないよ」「俺、特別研究生としてまだ学校に行ってるんだけど、桧山とは今も仲良しみたいだね」「そうだね。ワタシ友達少ないから、美乃梨ちゃんがいてくれて助かってる」こんな何気ない話題をしていたが、朝倉紗耶香は学生時代より少しは話をするようになった気がした。「ちょっと変わってもらっていい?」と後ろから私の肩をたたいてきた川瀬太一郎。私は元の席へ戻っていった。そして時間は過ぎていきクラス会は終了となった。
店を出て駅へ向かう帰り際、川瀬太一郎が声をかけてきた。「お前の言う通りにしたらさ、いい感じに話盛り上がったよ!」「それで、連絡先は交換したの?」「もちろんしたさ!朝倉って結構ミーハーだったりするんだけど、そこがまた可愛いんだよなあ」「なあ川瀬、さっき朝倉と話してみてわかったんだけど、押しに弱いタイプだと思うからどんどんリードしていけばいいと思う。ただ、気を付けなよ」「何を気を付ければいいんだ?」「あの手のタイプは押し過ぎると引かれるっていうのと、先走って無理に誘ったり、突然告白したりしないようにってことだね」「ああーわかってるよ。じわじわとやっていくよ」「あと、朝倉は簡単に口説けそうなタイプだから、他の男にも注意したほうがいいよ」「オッケー!アドバイスありがとな!」川瀬太一郎はかなり機嫌良さそうに帰っていった。
朝倉紗耶香と少し話しただけだが、私が考え込んで攻略法を生み出したり、意図的に何かをしなくても、このまま川瀬太一郎が連絡をとりあっていれば、いつか結ばれる日はくるだろうと思っていた。
■ 関係順調
クラス会が終わった後、川瀬太一郎は何度か朝倉紗耶香と連絡を取り合っていた。最初はメールでのやりとりからはじまり、最近では電話で少し話をするくらい二人の関係は進んでいった。川瀬太一郎はそういった状況を時々私に連絡してきた。私は二人のことを見守りながら順調に進んでいると思っていた。ところがある日、私の携帯電話に桧山美乃梨から電話がかかってきた。「桧山だけど、突然電話してごめんなさいね」「突然だね。どうしたの?」「川瀬君が紗耶香と連絡しまくってるみたいだけど、ちょっとやりすぎなんじゃないかなって思うのよね」「やりすぎって?そんなに頻繁に連絡しまくってるの?」「そうなの。さすがの紗耶香も少し困ってるみたいだから、ほどほどにって川瀬君に言ってあげたほうがいいかも」「朝倉が少し困ってるって、何か相談でもされたの?」「相談ってわけじゃないけど、川瀬君の話をすると紗耶香が『どうしよう』って言って困ってる感じだったのよ」「そうか、わかった。情報ありがとう!」クラス会の帰り際に”押し過ぎるな”と言っておいたはずだったが、ちょっと連絡しすぎているのかもしれない。
私は桧山美乃梨と電話で話した後、早速、川瀬太一郎に電話をした。「川瀬、ちょっと朝倉と連絡しすぎてるってことない?」「なんで?」「いや、桧山がさっき電話で連絡しすぎてるんじゃないかってアドバイスくれたんだよ」「俺そんなに連絡してるつもりないんだけどなあ。毎晩ってわけでもないし」「朝倉が少し困ってるみたいなこと言ってたから気になったんだけどね」「そうかな?電話で話しててもそんな風に見えなかったけどなあ。いつも楽しそうに話してる感じだし」「朝倉は基本無口だから、内心でどう思ってるかわからないから、もう少し慎重になったほうがいいかもしれない」「そうなのかなあ・・・でもさ、今度二人で水族館に行く約束までしたんだぜ」「ついにデートに誘ったのか?」「ああーちょうど水族館のチケットが2枚手に入ってさ、朝倉も是非行ってみたいっていうから、今度の土曜日に行くことになったんだよ」「まあでも、もう少し慎重に扱っていったほうがいいと思うよ」「わかったよ。それは意識しとくよ」
川瀬太一郎と電話で話した後、少し考えてみた。桧山美乃梨は朝倉紗耶香が少し困っていると言っている。ところが川瀬太一郎の話を聞いてみると、とてもそんな風に感じられないようだった。『どうしよう』って困っているようだというが、何に対して”どうしよう”なんだろうか。もし連絡されることに迷惑しているのであれば、二人で水族館なんて行くだろうか?ただ、押しに弱くて断りきれなかっただけ?それだったら『是非行ってみたい』なんて言うだろうか?本当に迷惑しているのであれば、いくら朝倉でも何かしらの理由をつけて断るくらいのことはできるはずだ。まだ知られていない何かが朝倉紗耶香の中にあるのか?いくら考えても答えはでない。今の私には情報が少なすぎる。とりあえず、慎重に行動していって様子をみていくしかないか。
土曜日になった。今日はおそらく川瀬太一郎と朝倉紗耶香が水族館に行ってるはずだ。お互いにこれはデートなんだと意識できているはず。あとは二人がどんな話をして、どういう雰囲気になっているか・・・かなり気になるが連絡を待つことにした。そしてその夜、川瀬太一郎から電話がかかってきた。「いやー今日は楽しかったよ!朝倉も喜んでくれてたから本当に良かった!」「その様子だと、うまくいったって感じなんだね?」「朝倉って可愛いものが好きみたいでさ、小さな魚みて子供みたいにはしゃぐんだぜ。そういうところがまた可愛くてさ」「じゃあ今日のデートは大成功ってところか?」「ああー大成功だったと思うよ。次の約束もしちゃったし」「次の約束?」「朝倉がさ、今度は動物園に行ってみたいって言うからさ、だったら来週行ってみない?って誘ったんだよ。そしたらオッケーもらえたんだよな」「それはよかったね!ただ、慎重に先走らないように注意だけはしとけよ!」「わかってるって!色々ありがとな!」
どうにも私は考えすぎていたのかもしれない。二人は結構うまくやっていけてるようだ。もし嫌な相手であれば動物園に行きたいなんて言うわけがない。二人が結ばれる日は近いかもしれない。あとはタイミングだな。そして次の週も二人は動物園に行ったようだった。
■ 状況一変
二人が動物園に行ってからまだ連絡がきていない。すると私の携帯電話が鳴ったので出てみると、桧山美乃梨からだった。「桧山だけど、ちょっといい?」「どうしたの?」「川瀬君が紗耶香をデートに誘ったみたいだけど、少し控えたほうがいいかも」「どういうこと?」「紗耶香って誘いに断りにくいタイプだから、内心でちょっと嫌って思っててもオッケーしちゃうところあるのよね」「朝倉が何か言ってたの?」「そういうわけじゃないけど、二週連続でデートはちょっとやりすぎなんじゃないって思ったの」「でも、動物園に行きたいって言ったのは朝倉のほうみたいだし、大丈夫なんじゃない?」「でも紗耶香は内心どう思ってるかわからないから、デートに誘うのもほどほどにしたほうがいいと思う」「川瀬の話だと楽しそうにしてたって言ってたけどなあ」「それは川瀬君とじゃなくても、普通に楽しかったってことなのかもしれないから」「なるほど。まあ誘うのもほどほどにするように伝えておくよ」「紗耶香は結構ナイーブなところもあるからね」「わかった」
桧山美乃梨と電話で話した後、私は川瀬太一郎に電話をした。「川瀬、動物園に行ってから連絡がこなかったけど、どうだったの?」「悪い悪い!ちょっと法事とかあってなかなか連絡できなかったんだよ」「それで、動物園ではどうだったの?」「朝倉のやつさ、本当に可愛いもの見るのが好きみたいでさ、子供みたいにはしゃいじゃって、超可愛いかったよ」「そうなんだ。じゃあ二人とも楽しめたんだね?」「ああーすっごく楽しかったよ」「ところでさ、二週連続でデートしたことになるんだけど、ちょっと行き過ぎって感じしない?」「なんで?なんで?」「いや、連続っていうのはどうなのかなって思ってさ」「でもさ、朝倉めっちゃ楽しそうにしてたし、それに・・・えへへ・・・俺、朝倉と手を繋いじゃったんだよ」「ええー!そこまでやったのか?」「少しの間だけだったけどね。人混みの中だったからはぐれないようにって手を繋いで歩いたんだよ」「大進展した感じだね。ただ、前にも言ったけど慎重に先走らないように注意ね!」「ああ、わかってるよ!でもそろそろ告白してもいけそうな気がするんだよな」「いや、告白は本当に待ったほうがいい。桧山が電話で妙なこといってたから」「妙なことってなんだよ?」「朝倉が内心どう思ってるかわからないからって言ってたんだよ」「内心どう思ってるか・・・か。まあ、もう少し話してみて様子見てみるよ」「告白するときは、先に俺に言ってね。桧山の言ってることも少し気になるから」「オッケー!告白する前に連絡するようにするわ」
その後も川瀬太一郎と朝倉紗耶香は電話でよく話をするようになっていた。三度目のデートの誘いは先走らず慎重にという私の言葉を意識していたのか、なかなかしなかった。それから二週間ほど経ったある日、川瀬太一郎から電話がかかってきた。「あれから朝倉と話してたんだけど、『太一郎君って呼んでもいい?』とかさ『太一郎君と一緒にいると楽しい』とか言ってくれるんだよ。もう告白してもよさげじゃない?」「いや、告白は待ったほうがいい。一応、桧山の意見も聞いてからのほうがいいと思う」「まあ、そういうなら告白は待つけどさ、今度、遊園地に誘おうと思ってるんだよ。その時に告白してもいいかなって思ってさ」「とりあえず、興奮を抑えたほうがいい」「わかったよ」
川瀬太一郎と電話で話した後、私は桧山美乃梨に電話をした。そして、太一郎が話していたことや告白するかもしれないことを伝えた。「ワタシも告白は待ったほうがいいと思うわ」「うまくいきそうな感じはするけど、どうして?」「紗耶香が内心どう思ってるか、もっと観察してからでも遅くないでしょ?」「それはそうだけど、観察っていってもね。これ以上、難しくない?」「川瀬君も少しくらいなら待てるでしょ?紗耶香とうまくいきたいなら、もう少し待つべきよ」「もう少し様子見ということだね?でもあいつ、今にも告白しそうな勢いだからなあ」「そこはあなたが何としても止めたほうがいいわ」「わかった。川瀬に伝えておくよ」私は桧山美乃梨と電話で話したあと、すぐに川瀬太一郎に電話して「絶対に早まって告白するな」と強く言っておいた。「わかったわかった」となんとか川瀬太一郎も納得したようだった。
ところが、一週間ほど過ぎたある日、状況が一変する出来事が起こった。川瀬太一郎から電話がかかってきた。「俺、もうダメだ・・・」「川瀬、どうしたの?」かなり暗く凹んでいるようだ。「朝倉からさ『もう連絡するの辞めよう』って言われたんだ」「ええーー!!どういうこと?」「わけわかんねえんだよ。今日、突然言われたんだよ」「それで、川瀬は何て答えたの?」「朝倉がそういうなら仕方ないしさ、わかったって言うしかなかったんだよ」この突然に状況が一変したのは何だろうか?やはり桧山美乃梨も言っていた内心ともいうべき、朝倉紗耶香の中に知らない何かがあったのか?私は電話を切らず、少し沈黙して考えていた。
■ 原因解明
川瀬太一郎は電話の向こうでかなり凹んで落ち込んでいる。「川瀬、朝倉はその他に何か言ってなかった?」「俺がさ、どうして?って聞いたら『このままの関係がいいから。関係を壊したくないから』って言うんだけど、わけわかんねえだろ?」「川瀬と朝倉の関係のことなのかな?」「俺にはわかんないよ」私は深く考えてみたが、電話中なので集中できない。「川瀬、後で電話するから一旦切るね」といって電話を切った。
朝倉紗耶香の言ってる関係とは何のことだろう?川瀬太一郎とはこのままの関係でいたいってことだと、連絡するのを辞めようというのはつじつまが合わない。それに関係を壊したくないってどういうことだ?どちらにしても朝倉紗耶香の言った関係とは川瀬太一郎のことではなさそうだ。じゃあその関係とは一体何を指しているのか?誰のことなのか?私はこれまでの経緯を頭の中で整理してみた。そしてある点に気が付いた。そういえば最初からそうだった。あの時もあの時も反対的だった。あっ!もしそうであれば全てのつじつまが合う!私の頭の中で真実が見えた瞬間だった。なるほど、そういうことだったのか!
私は再び川瀬太一郎に電話をした。まだ凹んで落ち込んでる様子だ。「川瀬、申し訳ない。これは俺のミスだ」「え?なんでお前が謝るんだよ」「今まで見抜けなかった俺に原因がある」「言ってる意味がわからないんだけど・・・」「告白のタイミングもお前の言った通りにすればうまくいってたと思う」「遊園地でってことか?でもどういうことだよ?」「俺達は半分操られていたんだよ」「操られていたって誰に?」「その操った奴と俺は一戦交えるから、全てはその後話してやるよ」「言ってくれよ!このままじゃわけわかんねえよ」「今はまだ俺の推測でしかないから、ハッキリしたことはまだ言えない。ごめん」「それはわかったけどさ、一戦交えても、もう朝倉は諦めたほうがいいってことだよな?」「いや、希望の光はまだあるよ。川瀬、俺と朝倉が電話で話することってできないかな?」「うーん、いきなり電話するしか方法はないけど、勝手に番号教えたってなると俺も困るんだよな」「そこは俺がなんとかカバーするよ。朝倉の電話番号を教えてもらえるかな?」「わかった。もうこうなったらどうにでもなってしまえって感じだわ」
朝倉紗耶香の電話番号を聞いた私は早速電話をかけた。最初は誰かわからない人からの電話に驚いていたが、そこはなんとか説明して理解してもらえたようだ。それから私は事情を説明して、推測した真実を伝えた。それを聞いた朝倉紗耶香は動揺していたが、なんとか落ち着かせることができた。また、朝倉紗耶香は勘違いしていたこともわかったので、なんとかその誤解を解くことができた。最後に私は「朝倉、関係は壊れたりしないから大丈夫だよ。ただの嫉妬だし、俺が何とかするから、川瀬と連絡して仲直りしなよ」と言った。朝倉紗耶香は小さな声で「うん、わかった」と呟いた。
これで下準備は整った。私や川瀬太一郎、朝倉紗耶香までも操った人物と一戦交えることになる。今すぐにでもしたかったが、今日は電話が多くて疲れていたので、次の日の夜にすることにした。相手はなかなか頭のいい人物だ。果たして決戦して勝利を得る事ができるのか。不安もあったが、これは私にしかできないことなのだ。
■ 決戦そして結末
いよいよ夜になった。決戦開始である。私は桧山美乃梨に電話をかけた。「もしもし、俺だけど、今大丈夫?」「大丈夫よ。そろそろ電話してくるんじゃないかなって思ってたのよ」「桧山、お見事だった・・・と言いたい」「はあ?何のこと?」「桧山、お前は最初から川瀬と朝倉のことに非協力的だったよな?諦めたほうがいいっていってたのはなんで?」「ワタシはただ紗耶香の友達として言ったのよ。連絡するのも川瀬君にほどほどにって言ってただけよ。それが何?」「そもそも、川瀬と朝倉が連絡しまくってるという話をした時、桧山は朝倉が少し困ってるって言ってたけど、それは良い意味で困ってたと思うんだけど、どう?」「そんなことないわよ。『どうしようかな』って考えてから・・・」「それは今後どうして行こうかって意味で、連絡することではなかった。それは川瀬の話を聞いた時に変だなって思ったんだよ。とても朝倉が連絡されることを嫌がっているように思えなかった」「そんなのわからないじゃない?」「いや、もし連絡されることが本当に嫌だったのなら、二人で水族館なんか行かないはず」「それは、紗耶香が断りにくい性格だから・・・」「二人で動物園に行った時もそう。あれは朝倉から言い出したことで、川瀬から誘ったわけじゃない。二週連続はたしかに誘いすぎだと思ったけど、考えてみればお互いがそれで同意してるなら何の問題もないでしょ?」「それはそうだけど・・・」「桧山、お前は焦ったんだ。二人が仲良く連絡しあっていること、それと二人で仲良くデートしていたこと。違うかな?」「なんでワタシが・・・焦らないといけないのよ?」「毎回、ほどほどにって言ってたのも、二人をこれ以上仲良くさせたくなかったからでしょ?」「ち、違うわよ・・・」「そうやって二人の仲をこれ以上良くしないために、俺に電話して、必死に止めようとした。俺もほどほどにって言葉を信じて川瀬にブレーキをかけてしまった。でも思惑通りに事は進まなくなってきた。でも二人の仲をこれ以上発展させたくなかった。まだ言おうか?」「何言ってるのかわかんない。どうしてワタシがそんな邪魔する必要があるのよ?」さすがにあーいえばこういう。なかなか頭のいい奴だ。「仲良しの友達、朝倉紗耶香を川瀬に取られたくなかったんでしょ?いや、大好きな朝倉紗耶香と言ったほうが正しいかな?」「そ、そんなことは・・・ない・・わよ」「桧山、お前は朝倉に彼氏ができることをどうしても阻止したかった。だから最終手段として朝倉に言ったんだよね?自分も川瀬のことが好きだってね。そうすれば仲良しの友達同士が恋敵になって友達関係が壊れてしまうと朝倉は思ってしまった。もっと続けようか?」桧山美乃梨は黙り込んだ。しばらくして口を開いた。「そうよ。その通りよ。ワタシは紗耶香のことが大好きなの!紗耶香に彼氏ができるなんて絶対に嫌だったのよ!あなたにバイのワタシの気持ちがわかる?わからないわよね?」「俺もビアンの人と話をしたことあるから、気持ちはわからないでもない。でも、桧山は朝倉のことをずっと縛り続けるつもり?結婚でもしようって思ってる?」「そこまで思ってないわよ。でも嫌なの。絶対に嫌だったの」「桧山がバイって言うなら、この先彼氏ができる可能性もあるわけだよね?もう朝倉を縛るのは辞めてあげなよ」「でもワタシの気持ちはどうなるのよ?」「朝倉は『美乃梨ちゃんとはいつまでも親友だよ』って言ってたよ。だからもう川瀬と朝倉のこと認めてあげなよ」「煮え切らないけど、わかったわよ・・・でも紗耶香に誤解させちゃったし、ワタシどうすればいいかわかんない」「そのことなら、すでに誤解は解いておいたよ。事情を説明して川瀬と仲直りするようにも言っておいた」「そう・・・そこまで手を回していたのね」「桧山、朝倉と親友でいてあげるといい。そしてお前にもいつか彼氏ができると思うよ」「ワタシに彼氏ができる?本当に?」「ああ、俺はそう思うよ。朝倉に彼氏ができたとしても、ずっと親友でいればいい。少し淋しくなるかもしれないけど、朝倉が消えるわけじゃないから大丈夫だよ」「たしかにそうね。わかったわ。あと、ごめんなさい」
これで決戦は終わった。桧山美乃梨の気持ちはわからないでもない。それに親友を失う怖さと嫉妬が彼女をそうさせたのだと思う。桧山美乃梨がバイだということは触れず、全ての真相を川瀬太一郎に伝えた。さすがに彼も驚いていたが、なんとか怒らせずに説得することができた。
それから数日後、川瀬太一郎は朝倉紗耶香を遊園地に誘った。そしてその夜、ついに告白したのだ。もちろん朝倉紗耶香の返事はイエスだった。そして二人の交際がはじまった。そして数か月後、桧山美乃梨に好きな男性が現れたという情報が入った。私は心の中で上手くいけばいいと願っていた。