いがみ合う二人

このストーリーは二つの実体験を客観的な視点になってみたものです。30%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

■ 啀み合う二人
12月の寒い季節がやってきた。世間ではすっかりクリスマスムードになっている。街を歩けばイルミネーション。ラジオをつけても流れてくるのはクリスマスソングばかり。私はあまりクリスマスに興味がないので早く終わってくれないかと思っていた。
そんなある日、子供の頃に近所づきあいしていた人達が集まって鍋パーティーをしていた。私の家族は引っ越しして離れた場所に住んでいたのだが、昔から近所付き合いで仲良くしていたこともあって、私の母が鍋パーティーに呼ばれたのだ。無料でお酒が飲めることもあって、私も参加することにした。鍋パーティーは5つ年下で子供の頃に一緒に遊んでいた樫葉和樹の家で行われることになった。集まった参加者は近所に住んでいた母親ばかりで、私からみれば近所のおばちゃんといった感じだ。私にとってそういうおばちゃん達の中と話をするのも時には楽しいことだった。私が子供の頃、一緒に遊んでいた子供達が今は何をしているのか聞いてみた。すると樫葉和樹の母親が「うちの息子には困っててね・・・専門学生だけど、家に帰ってくると部屋に引きこもっていてね」と心配そうに話した。私は「まあ、学校にちゃんと行ってるんだったらいいんじゃないかな」と言ったが、そこに和樹と同年代の栗本優香の母親が「うちの娘も色気づいて、バイトはしてるみたいだけど毎晩帰ってくるのが遅くて遊んでばかりで困ってるのよね」と話す。もう二人とも成人してるから好きなようにさせればいいんじゃないかというのが私の意見だった。しかし、もう一つ問題があるようで、優香の母親が「和樹君とうちの娘って、顔を合わせたらいつも喧嘩ばかりしてるのよ。子供の頃は仲良くしてきた幼馴染なのに、どうして今は仲良くできないのかなあって思うんだけどね」と言う。私が子供の頃は、和樹と優香は結構仲が良かったけど、今は犬猿の仲のようになっているのは不思議で気になった。私は「今、和樹って部屋にいる?」と聞いてみると和樹の母親は「いると思うよ」というので久しぶりに和樹と話してみようと思った。


和樹の部屋の前に行き、ドアをノックすると「誰?」という声がドア越しに聞こえてきた。「俺だよ俺、久しぶり」と言った。「あー兄ちゃんか!」といって部屋のドアが開いた。和樹の部屋はアニメのポスターが貼られていて、棚にはいくつかのフィギュアが飾られていた。机にはデスクトップパソコンと大きなディスプレイがあり、画面にはアニメ動画が一時停止されていた。「和樹、部屋に引きこもってるってお母さん心配してたよ」「いいんだよ、別に・・・誰かに迷惑をかけてるわけでもないし」「まあ、俺もアニメ好きだから否定はしないけど、たまには外出たほうがいいと思うよ」「なんだよ兄ちゃん、そんなこと言いに来たの?」「いや、久しぶりだったから話でもしようと思っただけだよ」私は年上ということから、昔から兄ちゃんと呼ばれていた。「それに、和樹、優香ちゃんと喧嘩ばかりしてるって聞いたけどどうなの?」「あんな遊びまくりチャラチャラしたクソ女、見てるだけでイライラするんだよ。いつも嫌味ばかり言ってくるし、腹立つんだよ」子供の頃から考えてみると考えられない状況になっていることに驚いた。「和樹、引きこもるのはいいけど、アニメキャラじゃなくて現実の女の子には興味ないの?」「全く興味ないね。女なんてバカばっかだし」「気になる人とかもいないの?」「うーん、いないわけじゃないけど・・・」「へえ、学校の女の子?」「違うけど、引きこもりの僕なんか相手しないと思うから、手の届かない人かな」「そっか」私はこれ以上、突っ込まなかった。しかし、和樹が気になる女の子には興味があった。その後、いろいろ和樹と話をした私は部屋を出て、鍋パーティーのおばちゃん達の所へ戻った。
和樹の話を聞いた私は優香の話も聞いてみたくなった。優香の母親に「優香ちゃんって今家にいる?」と聞いてみると「さっき家にいたから、今日はいると思うよ」と言った。「ちょっと久しぶりだから優香ちゃんとも話をしてこようと思うんだけどいい?」「それなら家行ってくればいいよ」という話になり、私は優香の家に行った。優香の家は和樹の家の斜め前なのですぐだった。優香の家のチャイムを鳴らすと優香の弟である栗本大祐が出てきた。「おう、久しぶり」「兄ちゃん、久しぶり!いきなりどうしたの?」「久しぶりに優香ちゃんと話でもしようかなって思ってきたんだけど、今いるかな?」「いるよ。兄ちゃん、とりあえず入りなよ」といって優香の家にお邪魔することになった。優香の部屋の前までいくと大祐が大きな声で「姉ちゃん、兄ちゃんが話がしたいって来てるよ」と言った。すると優香の部屋のドアが開いた。そこに現れたのは茶髪でロングヘアー、小顔で整った顔立ちをした美人だった。耳にはピアスをしていて、いわゆるギャル系というべき姿に変化していた優香だった。「よー兄貴!久しぶり!!」「兄貴ってなんだよ!?」「この年になって兄ちゃんってもおかしいでしょ?」「ちょっと部屋入れてもらてもいい?」「あー散らかってるけど、どうぞ」といって優香の部屋に入った。「優香ちゃん、昔の面影はあるけど美人になったね」「何それ?もしかして口説きにかかってるの?」「何、生意気なこと言ってるんだよ」という会話からはじまった。私は和樹と優香の仲について気になったので、さりげなく聞いてみることにした。「そういえば、和樹と喧嘩ばかりしてるって聞いたけど何かあったの?」「別に何もないけど、あのキモオタ(キモいオタク)、見てるだけでウザいんだよ」「和樹は優香ちゃんが嫌味言ってくるって言ってたけど、どうなの?」「あのキモオタの顔みてるとキモッとかウザッて言ってやりたくなるんだよ」「そういうことか」「フィギュアだっけ?アニメキャラに恋愛してるとかってマジありえなくない?生理的に無理って感じ」「でもさっき和樹に話聞いたけど、気になる女の子はいるみたいだよ」「へえー信じられない。あのキモオタに気になる女の子がいるなんて」「いや、引きこもりみたいだけど、和樹も男だからね」「それにしてもあのキモオタが好きなタイプって気になるわ!そういう話は聞かなかったの?」「いや、そこまでは聞いてないよ」「なぁんだ。でもどんな女の子なんだろうね?」この後、少し優香と話をして、優香の家を出た。
それにしてもいわゆるオタクというべき引きこもりの和樹と、遊び人のイケイケなギャル系の優香が啀(いが)み合うのはわからなくはない。お互いまるで正反対の性格なのだ。しかし、二人の話を聞いていると本当に嫌い合ってるとは思えなかった。

■ 優しさと秘密
ある日、優香が血を吐いて緊急入院となった。遊びすぎが原因なのかわからないが、胃潰瘍らしい。その情報は私の家族にも入ってきた。さすがの私も病院にお見舞いに行くことにした。病室に入ると既に誰か見舞いにきていたようで、花瓶に花がさしてあった。「優香ちゃん、大丈夫?」と私が言うと「うん、大丈夫!お見舞いきてくれてありがとう」と意外と素直だった。「誰かお見舞いにきてたの?」「うん、あのキモオタが花持ってきたんだよ。柄でもないことするなって感じ」「そうなんだ」「あのキモオタ、よくお見舞いに来るんだけどウザいんだよね」和樹はよくお見舞いに来ているのか。「まあ、優香ちゃんのことが心配なんじゃない?」「そんなに来なくていいのに・・・やってることキモって思うけどね」「まあまあ、和樹なりの優しさだから、そんな言い方しちゃだめだよ」「キモオタの優しさかぁ・・・やっぱキモって感じ」とりあえずこんな感じに話をして病室を出た。
病院を出て街に買い物に行くと、向こうから手を繋いで歩いてくる二人が見えた。その二人はなんと和樹の妹である樫葉美樹と優香の弟である栗本大祐だった。私とばったり会ってしまって「あっ!」と驚く二人。「あ、あの、、、これは・・・その・・・」動揺している大祐。「なるほど、二人はそういう関係だったんだね」と私が言った。美樹は「あ、あのね、うちの兄ちゃんと、優香姉ちゃんってすごく仲悪いじゃない?だから言いづらくて・・・」と言った。そういえば、大祐と美樹も同じ高校三年生で年頃。幼馴染でそういう関係になっても不思議ではない。私は「二人のこと、誰にも言ってないの?」と聞いてみた。すると大祐が「うん。親にも姉ちゃんにも言ってない。特に姉ちゃんに知れると、絶対に反対されるし、だからこのことは絶対に内緒にしててほしい!」と強く言った。いろいろ事情があるんだと思った私は「わかった。二人のことは誰にも言わないから安心して!」と言った。大祐も美樹も「絶対に絶対に内緒にしててね」とハモるように言った。私は「わかったわかった!でも、こんなところでデートなんかしてたら誰かに見つかるかもよ?」と一応アドバイスした。大祐は「いつもは離れた場所で会ってたんだけど、今は姉ちゃんも入院してるし大丈夫かなって思ったんだ。でも兄ちゃんにバレちゃったし今後は気を付けるよ」啀み合う二人の妹と弟が恋愛関係にあるというのは何かのドラマかアニメで見た事はあるが、現実ではかなり複雑な事情が絡むみたいだ。私は「本当に気を付けてね!」と言って二人から去った。
二週間ほど経って、優香は退院してすっかり復帰したとの連絡が入った。私は退院祝いでもしようかと思ったが、そこまでする必要はないだろうということで「退院おめでという」と電話で言うだけにしておいた。それから3日くらい経ったある日の夜、私は仕事の打ち合わせと仕事関係者からの接待で帰りが遅くなった。22時を過ぎた頃に駅に着くとフラフラと歩くギャルに目がいった。ネックレスや腕輪を身に着け、寒い冬だというのに腕に黒いコートをひっかけて歩いている。その後ろ姿はどこかで見たことのあるギャルだと思ったが、近づいていくと優香だとわかった。飲み過ぎてフラフラしているのだろうか。声をかけようと思ったその時、コンビニ袋を片手に持って歩いている和樹がいた。優香は「ああ!キモオタ発見!」と大きな声を出した。和樹は振り向き、酔っぱらった優香の前まで走ってきた。和樹は「お前、何考えてるんだよ!退院したばかりでまだ病み上がりだろ!」と優香に怒っている。優香は「合コン、ご・う・ど・うコンパに行ってたんだよ」と言った。すると和樹は「それにしても飲みすぎだよ!そんなに酔うまで飲むなよ」といい優香は「だあって、いい男いなかったんだもん」とかなり酔った声で言った。遠目で見ていた私は二人の様子を伺っていた。「とりあえず俺が肩貸すから!歩けるか?」「キモオタのくせに生意気!」そう言いながらも優香は和樹の肩に手を置き、ゆたゆたと歩いて帰っていく。気になった私は後をつけてみた。二人は歩きながら「お前、もうちょっと自分の体のこと大事にしろよ」「ウザいウザい!アタシの体はアタシが一番よく知ってるんだよ」「それに、その・・・合コンって、そんなに男ほしいのかよ?」「ほしい、ほしい、いい男がほしい!」「そうか・・・でもあんまり心配かけさせるなよ」「ん?心配?キモオタのくせにアタシのこと心配してるとかマジキモい」少し近所迷惑になるほど大きな声で話していたので、後をつけていた私にも会話がよく聞こえた。
それにしてもこの二人は犬猿の仲とはいえ、こういう場面もあるのかと思った。意外に二人で話はするんだと。和樹も優香のことをクソ女といいながら、心配して入院中もお見舞いに行き続けたり、今日の酔っぱらった優香への対応を考えると必要以上の優しさを感じる。もしかして、先日、和樹の言ってた気になる人、手の届かない人とは優香のことではないだろうか。そう思った私は本当の気持ちを和樹に聞いてみることにした。

■ 本当の気持ち
次の日、気になった私は早速和樹の家に行った。家のチャイムを鳴らすと和樹の母親がでてきた。「おばちゃん、和樹いる?」「部屋にいるけど呼んでこようか?」「いや、あがらせてもらって部屋で話するよ」「じゃあ入ってきて」「お邪魔します」和樹の部屋の前まで行くと私は「和樹、俺だけどいる?」と言った。ドアが開き和樹が出てきた。「兄ちゃん、どうしたの?」「ちょっと話がしたいんだけど入れてもらっていい?」「いいよ」といって和樹の部屋に入ってドアを閉めた。「和樹、男同士の話だ」「どうしたの改まって?」「前に和樹が言ってた気になる人、手の届かない人って誰のこと?」「そ、それは、、、兄ちゃんの知らない人だよ」私は鋭い目で和樹を見ながら「本当にそう?」と言った。「ほ、本当だよ・・・」「それが学校の誰かでないとすれば、引きこもりの和樹と接点のある女の子って誰?」「そ、その・・・高校生の時の、そう、高校生の時の女の子だよ」和樹は相当動揺しているのがわかる。「じゃあその女の子の名前言ってみて!」「そ、それは・・・」「それは?」「あの、その、あ、あれ?何て名前だったかな?」「和樹、それは高校生じゃなくて子供の頃一緒にいた女の子でしょ?」「ま、まさか、あんなチャラチャラしたクソ女なわけないじゃないか」「俺、子供の頃一緒にいたって言っただけで優香ちゃんとは一言も言ってないよ?」和樹の力が一気に抜けたようだった。「和樹、男同士の話だって言ったよね?もう本当のこと言えよ」「そうだよ。兄ちゃんの言う通り、優香だよ」やっぱり・・・「入院中の優香ちゃんのお見舞いによく行ったりしてたよね。それに昨日、優香ちゃんが酔っぱらってた時、俺後ろから見ていたんだよ」「兄ちゃん、あれ見てたのか・・・」「見ていて和樹の優香ちゃんに対する優しさは普通じゃないって思ったんだよ。もう一度聞くけど優香ちゃんのことが好きなんだよね?」「うん、好きだよ。小学生の頃からずっと。でも中学生になって優香は変わっていって、僕も引きこもりになっていって会うたびに喧嘩ばかりするようになって・・・その、僕、嫌われてるから・・・」「それで手が届かない人って思ってるわけだね?」「だって僕こんなアニオタの引きこもりだし、あいつはチャラチャラした遊び女だし、釣り合わないよ。優香は僕なんか眼中にないと思う」和樹は正直に自分の気持ちを打ち明けたが自信がないようだ。しかし、私は希望がないわけではないと感じていた。「あと一つ聞いておきたいことがあるんだけど、優香ちゃんの中身が好きなんだよね?」「うん、確かにあいつは美人だけど、そんな軽い気持ちじゃないんだ。僕は子供の頃からずっとあいつを見てきて思ったんだ。僕には優香がいないとダメなんだって」「よし、わかった!あと和樹、手の届かない人じゃなくて、和樹の手の届くたった一人の女の子かもよ」「兄ちゃん、それってどういうこと?」「和樹にとって優香ちゃんだけがたった一人の手の届く女の子って意味だよ」「でもあんなギャル女が僕みたいなオタクを相手してくれると思えないよ」「いや、それは表面的にってことで、実際はそんなことはない。それを俺が証明してやるよ。でもあとは和樹次第だよ」「僕次第って告白でもしろって言うの?」「まあ、最後はね。でもその前にすることがある」「その前にすることって何?」「ちょっと作戦を考えるから待ってて。それまで優香ちゃんとは今まで通りに接していればいい」私は和樹と優香を結ばせることは自信があった。ただし、いきなり告白させるのは、和樹もやりにくいだろうし、優香も素直にならない可能性がある。そうならないためにも下準備をする必要があった。
しかし、その下準備をどうセッティングするかが問題だ。作戦はもう決まっているが、その雰囲気にもっていく方法が思いつかない。夜の公園という手もあるが、誰かが来てしまったらアウトだ。あくまで何気なく二人きりにする状況を作り出さないといけない。それも不自然じゃなく、ただあるがままにその状況にしてしまう方法。あれこれ考えてみるが思いつかない。ここは協力者が必要だな。協力者となりえるのはあの二人だ!私はその二人の協力者を家に呼ぶことにした。

■ 作戦会議
「両想い!?」と大きな声でハモる大祐と美樹。「しーっ」と言って私は黙らせた。私が家に呼んだ協力者はお互いの妹と弟である大祐と美樹だ。大祐は「だって、姉ちゃんあんな感じだし、いつも和樹兄ちゃんに嫌味いってるし、そんなこと信用できないよ」続けて美樹も「お兄ちゃん、あんな引きこもりのオタクだよ?優香姉ちゃんとは釣り合わないと思うよ」と言った。しかし私は「いや、俺の推測が正しければ、あの二人は表面上では啀み合ってるけど、心の底ではお互いに想い合ってるよ」と言った。驚きの顔を隠せないといった感じの二人に「和樹と優香ちゃんがうまくいけば、お前らの関係もやりやすくなるでしょ?だから協力してほしいんだ」と私は強く言った。大祐は「そら姉ちゃんと和樹兄ちゃんがうまくいけば、僕らにとっても有難いことだから協力はするけど、協力って具体的に何をすればいいの?」と聞いてきたので「和樹と優香ちゃんが二人きりになるシチュエーションを考えてほしい。それもごく自然にね」と言った。美樹は「優香姉ちゃんを兄ちゃんが呼び出すのはダメなの?」と聞いてきたので、「いや、それだと意味ないんだよ。あくまでごく自然に二人きりになるシチュエーションを作らないといけない」と答えた。さすがの二人も頭を悩ましていた。しばらく沈黙が続いたが、突然美樹が「スキーに行くのはどうかな?コテージとかバンガローとか借りて一泊二日でいって、ワタシ達が二人きりになれるシチュエーションを作ればいいんじゃない?」と提案してきた。私は「なるほど、それはいい考えだ!今度の連休なんかいいね」といって早速スキー場とコテージやバンガローを探し始めた。私は「あともう一つ、この作戦を実行するには大祐と美樹の関係を和樹には明かさないといけない。そうでないと和樹も不自然に思うから。和樹には絶対に口止めするから明かしてもいい?」と二人に聞いた。二人は少し考えていたが和樹だけであればという条件で了承してくれた。私は二人に作戦を明かしていった。美樹が「その作戦でいいと思うけど、途中で優香姉ちゃんが寝ちゃったりしないかな?」と不安を言った。私はたしかにそれは問題だ!危うく見落とすところだったと思った。すると大祐が「姉ちゃん、夜更かしするしゲームでも持っていけば起きてると思うよ」と言ったので、私は「よし、じゃあ21時30分に俺たちは寝たフリをしよう!何があっても作戦が終わるまで起きないようにすること」と言った。これで作戦は決定した。大祐と美樹は不安そうな表情をしながら「その時に告白してフラれたらどうする?」と聞いてきた。私はこの作戦の意図を二人に説明した。「この作戦は告白が目的じゃなくて、あくまで優香ちゃんに和樹も男であると意識させるところにあるんだよ。子供の頃からの想いだから優香の心の中でそれを忘れてる可能性がある。それを思い出させるという感じかな。告白はこの作戦を実行した後、タイミングを見計らってということになるから心配しなくても大丈夫だよ!」「よし、やろう!」
作戦が決定したところで私は早速和樹の部屋へ行った。私は和樹に作戦を伝えた。「そんなことして大丈夫かな?僕もっと嫌われるんじゃない?」「そのくらいのことであれば大丈夫。少し勇気を出せば和樹でもできるでしょ?」「まあ、頑張ってみるけど本当に本当に大丈夫?」「心配いらないって!でも、絶対にそれ以上のことはやったらダメだよ。感情的になって告白するのも絶対にダメ。それだけは肝に銘じておいて!」「それと・・・」私は大祐と美樹の関係について和樹に明かした。「そうだったんだ!あの二人がそんな関係になってただなんて知らなかった。美樹のやつ高校生のくせに・・・」「いや、高校生が恋愛するのは普通だよ。和樹が遅すぎるんだよ。ずっと優香ちゃんのことが好きだったのはわかるけどね」「たしかにそうだけど、妹に先越されたみたいで悔しいなあ」「このことは優香ちゃんともちろん他の人にも絶対秘密にしておいてほしい」「わかったよ。でも兄ちゃん、よくこんな作戦思いついたよね?あんまし勉強できないのに、こういうことには頭いいんだね」「勉強はあまりってのは余計だよ。恋愛ってのは順序が必要なんだよ。それを正しく進めていけばいいんだよ。ただ、俺らはそれをサポートするだけで、あとは和樹次第だよ」「わかったよ、やってみるよ」
もう正月は明けて一月に入っている。美樹と大祐の計らいで次の連休にバンガローを予約してスキーに行くことが決まった。ちなみに、子供の頃からよく近所同士でスキーに行ってたので、みんなスキーはそれなりに滑れるはず。あとは、和樹が実行するのみなのだ。

■ 作戦実行
連休になり、私と和樹、優香、美樹、大祐の5人で一泊二日のスキーに行く。私が車を運転することになったのだが、優香にはもう少し話を聞きたかったので助手席に座ってもらった。高速道路を走らせながら私が質問する。「優香ちゃん、結構美人になったけどモテたりしないの?」「うーん、どうなのかなぁ?高校生の時、何人かに告白されたことはあるけど」「そうなんだ、それで付き合ったりしなかったの?」「付き合ったこともあるけど、なぁーんか違うって感じなのよね」「違うって具体的にどういうところが?」「なんだろ?タイプじゃないっていうか、思ってる人と違うっていうか、求めてる人じゃないっていうか、なんだろ?わかんないや」「なるほど、そうなんだね」求めてる人・・・そういうことか!と私は思った。私の推測が正しければ優香の求めている人とはただ一人しかいない。
スキー場に着いて道具一式をレンタルして準備が整った。ゲレンデでは、優香と美樹、和樹と大祐のペアーでリフトに乗る。私は一人、最上級コースや変な場所を滑るのが好きだったので一人で行動していた。スキー場のレストランで昼食をとったあと、16時に駐車場で待ち合わせということになった。和樹のために立てた計画であったが、私はスキーを滑っている間、何もかも忘れて、まるで鳥になったかのような気分でいる。アドレナリンが出っぱなしの状態になるのだ。かなりくたびれたが、私にとって久しぶりに充実した一日となった。16時に駐車場に向かい、四人と落ち合った。車に乗って予約しているバンガローへ行く。ずいぶん体が疲れていたが本来の目的はここからだ。
近くのスーパーで夕食の買い物をしてバンガローへ向かう。夕食は簡単に作れるカレーライスになった。予約していたバンガローは6名用だったが、中は意外と狭かった。布団と毛布は6人分用意されていたが、この室内で5人でも寝るのはかなり窮屈のように思えた。とりあえずカレーを作る。優香は料理が得意じゃないので、私と美樹の二人でカレーを作り始めた。テーブルに5人が座ってカレーを食べる。優香は和樹と言葉を交わせば「キモい」、「ウザい」の連呼だった。最初に優香がシャワーを浴びに行った。私は和樹と大祐と美樹の3人に再確認しておいた。とにかく21時半になったら眠いといって寝たフリをすること。作戦実行中は絶対に起きないこと。そして和樹には「絶対にそれ以上のことはしちゃだめだよ!それ以上のことをしたらその後やりにくくなるから!」と念を押しておいた。
21時になり、そろそろ眠くなったという理由で布団を敷いた。私は人が横にいると寝れないという理由でロフトの上に布団を敷いた。ロフトの上からだと状況が確認しやすいという理由もあった。向かって左から美樹、優香、和樹、大祐の順で寝ようということになった。優香と和樹を隣り合わせにするのも作戦の一つだった。ところが「ちょっとぉ、なんでアタシの横がキモオタなのよ!!」と優香が言う。私は「狭いんだし仕方ないでしょ」と言い返す。優香は「兄貴が隣にくればいいじゃない?」というので私は「俺は人が隣にいると寝れないんだよ」といってなんとか誤魔化した。そして21時半になり、美樹と大祐は眠くなったといって布団に入った。私も疲れたといってロフトの上にあがり布団にもぐって二人の動向を伺う。優香は「ちょっとぉ、みんな寝るの早くない?せっかく来たんだし、トランプでもして遊ぼうよ」と言う。大祐は「姉ちゃん、ゲーム持ってきてるでしょ?寝れなかったらゲームでもしてれば」と言った。ナイス大祐!と思った。和樹も布団に入り横になったが、恥ずかしいのか大祐のほうに身体を向けている。さて、ここからが作戦実行なのだ。和樹、頑張れと心の中でつぶやいた。
22時が過ぎ、一人眠れなくなって布団をかぶりながらゲームをしている優香。そろそろはじめてもいいのだが、和樹は勇気がでないのかなかなか行動に出ない。美樹と大祐は寝息を立てているのでおそらく本当に寝てしまったようだ。和樹もまさか寝たのではないかと不安になってきた。10分くらいが経って、和樹がいきなり布団から体を起こした。よし、作戦実行だ!と思った。私は布団の中に潜り込みながら、すこし布団の隙間を開けて下の様子を伺う。布団をかぶってゲームをしていた優香が驚き「ちょっと何?いきなりびっくりするじゃないの!」と言った。和樹はおどおどしながら「なあ、優香、ちょっと聞いてもいい?」と聞く。優香は「何よ?」とキツイ口調で聞く。和樹は「僕って、その、、、優香はどう思う?」と聞く。優香はさらっと「キモい!ウザい!」と答える。和樹は「優香はそんなに僕のこと嫌い?」と聞く。優香は「嫌い・・・ってわけじゃないけど・・・」と少し困惑しだしているようだ。さらに和樹は「嫌いってわけじゃないって、じゃあ好きって・・・こと?」と聞く。優香は少し黙り込んで「えっと・・・少し・・・」と呟いた。和樹は「僕は優香のこと嫌いじゃないよ」と言った。優香は黙っていた。ゲームをしているようで指を動かしている様子もなく完全に硬直してるように思える。和樹は横になり優香のほうに身体を向ける。和樹は小さな声で「優香、ちょっとこっち向いて」と呟いた。優香はそろりと体を和樹のほうに向けた瞬間、和樹は優香に抱きついた。何も言わず無言で抱きついている。私が『抱きついてる間は言葉を出すな』と言っておいたので、和樹はそれを忠実に実行している。二人ともおそらく今は何かしらの感情を抱いている。一分くらい経ったか。抱きついてる時間が長く感じる。そのまま和樹はそっと体を離して自分の布団に戻る。シーンッと静まり返った部屋の中、作戦が終わったところで私も知らない間に眠っていた。
次の日の朝、チェックアウトを済ませて午前中だけスキーをして帰ることになった。優香の和樹に対する態度は明らかに変っている。そもそも話しかけようとしない。お互い目が合ってしまうとわざとそらす。私の思惑通り、優香は和樹を意識しはじめていた。

■ 最終結末
それからというもの優香は和樹に口を聞かなくなっていた。近所だったのもあって顔を会わせることはあったが、優香は恥ずかし気な顔をしながら会釈だけして家に入っていく。「ねえ、兄ちゃん。この前の作戦は実行したけど、あれから優香と口を聞いてないんだよ。本当に大丈夫なの?」と心配そうに言う和樹。私は「ああ、大丈夫。作戦は見事に成功してるよ。あとは告白あるのみ」と言った。「告白って、僕、どう言えばいいの?どこで言えばいいの?」「ストレートに自分の気持ちをバシッと言えばいい。あと場所もどこでもいいんだけど、夜にそこの公園にでも呼び出せばいいよ」「いきなり呼び出して来てくれるかな?」「うーん、和樹がいきなり呼び出すというより・・・そうだ、俺が呼び出すよ。和樹は公園で待っていればいい。優香ちゃんは俺が連れて行くから!」「じゃあ兄ちゃんも来てくれるの?」「ああ、ついていくけど、告白するときは少し離れた場所から見ていようって思う」「わかった。僕、不安だらけだけど頑張ってみるよ」「大丈夫!優香ちゃんはきっといい返事をしてくれると思うから、頑張れ!」
その日の夜、私は優香の家のチャイムを鳴らした。出てきたのは優香の母親だった。「あら、どうしたの?」「おばちゃん、優香ちゃんいる?ちょっと呼んでほしいんだけど」「優香~優香~」大きな母親の声を聞いて優香が玄関に出てきた。「優香ちゃん、ちょっと話があるからそこの公園までいい?」「いいけど・・・」不思議そうな表情をしながら優香は靴をはいて外に出てきた。公園まで歩きながら「ねえ、話って何?」「話があるのは俺じゃないんだよ」という話をした。そして公園についた。公園の真ん中に和樹が立っていた。私はすぐ横にあるベンチに座って様子を伺うことにした。優香が和樹のほうへ向かって行った。和樹は「いきなり呼び出してゴメン。優香、ぼ、僕こんな、オタクで、キモいかもしれないけど、子供の頃からずっと優香のこと好きだった。だから、僕と結婚してください!」私は”おいおい!”と思った。付き合ってくださいじゃなくてプロポーズになってる。優香は顔を赤くしながら「そんな、いきなりだし、その、、、アタシは・・・」と硬直している。沈黙が続く公園内。和樹も優香も何も言葉にしない。私はそんな二人の状態を見るに見かねて二人の前まで歩いて行った。
「二人とも、ちょっとそこのベンチに座ろうか」と私は言った。二人をベンチに座らせて私は「和樹、結婚はちょっと話が飛びすぎでしょ?付き合ってくださいって言いたかったんだよね?」と言った。和樹は「僕、そのくらいの気持ちあったから」と言う。続けて私は「優香ちゃん、もう素直になってもいいんじゃないかな?和樹のこと好きだよね?」と言った。優香は顔を赤くしながらこくりと頷いた。「二人とも啀み合っていたけど、本当はずっと前から好きあっていたんだよね」二人ともこくりと頷く。「じゃあ二人の関係はもうただの幼馴染じゃなくて、恋人同士になるってことでいいよね?」和樹も優香も顔を真っ赤にしながら「はい」と答えた。しばらく沈黙が続き優香が口を開いた。「兄貴はさ、いつからアタシがこいつ(和樹)のことが好きだって気づいてたの?」「ああ、それは去年の12月、久しぶりに話した時からだよ」「ええぇ!!!!」これを聞いて、さすがに優香だけではなく和樹も驚愕しているようだった。「兄貴、さすがにそれは嘘でしょ?」と優香は言う。しかし私は「あの日、和樹には気になる女の子がいるって話した時、優香ちゃんが『あのキモオタが好きなタイプって気になる』って言ったの覚えてる?本当にどうでもいい嫌いな相手だったらそんなこと気にならないよね。まあ、最初は興味本位かなって思ったけど、その後の二人の行動みてると、お互いに意識しあってるなって思ったよ。優香ちゃんはそんな和樹の優しさをわかっていながら嫌味言ってたんだよね?あと、優香ちゃん、他の男と付き合ってみたけどなんか違うって言ってたけど、本当は心の中で和樹を求めてたんだよね?」「兄貴・・・」「兄ちゃん・・・」「勉強できないのに、そんなところは頭がキレるんだね」「勉強できないは余計だよ!」
これで引きこもりのオタクと呼ばれる男子とギャル系でイケイケの女の子が結ばれた。一見、釣り合わない男女と思われるが、それは表面的な部分であって、心と心が繋がっていればこういうこともあるのだ。むしろ性格が逆で反発しあう二人だからこそ本当の相性は良かったのかもしれない。
それから三年後・・・
樫葉和樹と栗本優香はめでたく結婚することになった。私は東京に出向していたので結婚式には参加できなかった。和樹は引きこもりではなく、仕事のできるゲームプログラマーになっているという。そして今では子供までできて幸せに暮らしているらしい。最後に二人の弟と妹、大祐と美樹の関係はどうなっているのかわからない。