運命の人!?

このストーリーは80%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

私が20歳になった冬のこと。私の家に後輩である吉井裕彦とその友達である藤原武信が訪れた。二人は「ナンパにいかないか?」と私を誘ってきた。この二人は根っからの女好きで、時間さえあればナンパにいっていた。私はナンパに興味はなかったが、この二人がどうやってナンパするのか、どんな女性が付いてくるのか気になっていたので一緒に行くことにした。

運命の人!?

ナンパの場所となったのは私の家から車で10分ほど走った市街地で、私を含まない二人組の女性を探していた。最初の数組は失敗していたようだが、2時間ほど過ぎた頃、見た目が幼い感じの二人組の女性を発見した。裕彦はすかさずその二人に話しかけていった。聞くところによると二人とも16歳で、一人はナンパ慣れした遊び人風の女性で和実というらしい。もう一人は可愛らしい感じだがどこか淋し気の表情をした智美という女性であった。二人の女性と会話をしながらファーストフード店に入った。裕彦と武信は適当な話をして笑いをとったりしていたが、私はひとまず黙っておくことにした。何度か智美と目が合っていたのだが、その日は一言も話すことはなかった。最後に連絡先の交換をすることになったのだが、私も二人の女性から名刺を渡された。当時、ゲームセンターなどで個人名刺を作るのが流行っていたのだ。

年が明けた正月のこと・・・

私は智美の存在が気になっていた。何度か目が合っていたからかもしれないが、智美の目は何かしら私と共通するものがあるように感じていたからだ。私がいただいた智美の名刺には当時流行っていたポケットベルの番号が書いてあった。私は突然、智美と話してみたいという衝動にかられた。そして、名刺に書いてあるポケットベルの番号にかけて、私のPHSの番号を入力して鳴らしてみた。しばらく反応はなかった。突然、知らない番号を送信したので反応がないのは仕方のないことだと思っていた。

しかし、その日の午後のことだった・・・

智美からポケットベルが鳴ったと電話がかかってきた。私は本当に電話がかかってきたので少し動揺していた。最初は「誰ですか?」と尋ねられた。私はおどおどしながら、先日、裕彦と一緒にいて話さなかった一人だと説明した。すると智美は全く話さなかった私のことをよく覚えていたようだ。それどころか裕彦が私のことを「何を考えているのかわからない不思議な人」だと話していたようだ。そんな話を聞いていた智美は何が不思議なのか興味を持っていたらしく、一度私と話してみたかったらしい。そこから智美との会話が弾んできて気づいた時には4時間が経っていた。また、裕彦とは年末に二人で逢っていたようだが、今はもう連絡すらこないらしい。

その後、何度か智美と電話で話をすることが増えた。話していくうちに感受性や感性が私と似ていること、意見や考え方も非常に近いことがわかった。自分と同じような異性が世の中にいたことで、智美と私はお互いに冷静さを失っていった。まさに運命の人なのか!?と思えるくらい。最初に「二人は運命の出会いだ」と言いはじめたのは、私が通っていた学校のクラスメイトであった阿部康宏だった。私が智美のことを康宏に話すと「気持ちの悪いくらい似ている人なんて一生のうち出会えるかわからない」、「電話でなく一度二人で逢ってみるべきだ」と言う。たしかに電話でなく実際に会って話をするのが次の段階だと私は思った。

1月下旬、ついに私は智美と二人で逢うことになった。それまでも電話でかなり話をしていたからなのか、初めて二人で逢ったにもかかわらず何の違和感もない。お互いに遠慮すらしない。二人はずいぶん前からの知り合いだったかのように感じる。実際に会って話をしていても意見は一致するし、なによりも一緒にいて楽しい。その日の夜、私の部屋に来た智美と一夜を過ごすことになる。当然、体の関係にまで発展した。結局、その日の朝から次の日の昼間まで智美と一緒にいることになった。私は「智美と付き合ってないけど、あの夜のことについて後悔はしていない」と智美に言った。すると智美も「私も後悔していない。また二人で逢いたい」と言ってきた。

ところで、智美には海外留学している賢二という彼氏がいた。ところが智美に何の相談もなく勝手に留学して、すでに3ヶ月も音信不通の状態だった。智美にとって勝手に留学した賢二との関係をハッキリさせたいが、連絡先もわからず音信不通で「別れるにも別れられない状態」だった。智美は賢二と関係はすでに終わっていると思っていた。そして智美は「私を捨てた賢二とはもう逢わないし別れる」と私に断言した。そして私と智美は付き合うことになった。

私は智美を年下扱いせず、いつも対等の立場で話をしていた。私とほぼ同じ考え方だったということもあったのか難しい話をしても「わからない」とは言わない。また、智美は私のクラスメイトである康宏の恋愛相談にも乗っていたが、ときには「恋愛で楽したいと思ったらそこで終わり」、「素直な気持ちにならないと自分の首を絞めることになる」などと16歳とは思えない厳しい発言をしたりする。そんな智美に私の心は強烈に染まっていった。しかし、だんだん私は智美との関係に疑問を抱いていくことになる。そして、私は二つのことを思い始めたのである。一つは智美と違う部分が見えてきたが、そのことに対して否定的になっている自分がいること。もう一つはお互いの意見が一致して共感しているのはいいが、言葉にしなくてもわかってしまうので意見のぶつかり合いがないということ。つまり何か物足りなさを感じていた。そもそも智美との関係はどの方向に向かっているのかわからない。

そんな疑問を持ち続けながらも智美と付き合ってから2ヶ月半がたったある日、突然、智美の元彼氏である賢二が1週間後に帰国するということを知った。智美は前々から知っていたようだが、私に気を遣って言わなかったのである。私は智美と賢二の中途半端な関係をハッキリさせたいと思った。そして「ちゃんと話をしてハッキリさせてきてほしい」と智美に言った。すると智美は「会って話をつけてくる」、「信用して待っていてほしい」と私に断言したのだ。

1週間後、智美は話をつけるため賢二に会いに行った。私は智美の言葉を信じていたし、話がついたら連絡してくるようにとも言っておいた。ところが、その日の深夜になっても智美から連絡がこない。ポケットベルを鳴らしても返答がない。次の日も、そのまた次の日も。そして音信不通になって4日目になった夜、ついに智美から電話がかかってきた。電話の向こう側であきらかに泣いている智美は「もう逢いたくない」、「話もしたくない」、「さようなら」と言って一方的に電話を切った。それ以来、智美との連絡は途絶えた。賢二と会って気持ちが整理できず悩んだ末の結果だったのは明白だった。私より賢二のほうが魅力があったんだろうと思い込むより仕方がなかった。まして私と同じ考え方の持ち主が選んだ道なのだ。裏切られた気分でもあったが、諦めるしかなかった。

それから2週間後、私はもう智美のことが心から消えそうになっていた。そんな日の夜、突然、智美から電話がかかってきた。智美は「この前はごめんなさい」、「怒ってる?」と私に聞いてきた。私は怒っていないことを伝えると、賢二と再会して「もう一度やり直してほしい」と言われたこと、智美が悩んで考えた結果、賢二とよりを戻すことを選んだことを話した。しかし、やはり賢二との関係はうまくいかず完全に別れたことを私に報告するために電話をかけてきたらしい。私は「そんな報告をなぜするのか?」と聞いてみると、智美は「また逢って話を聴いて欲しい」、「今度はちゃんと別れたから」と言う。私は一瞬戸惑ったが、ここで智美とよりを戻そうとは思わなかった。私は「もう嫌だ」、「二度と連絡してこないでほしい」といった。智美は悲しそうな声で「わかった」と答えて電話を切った。これで本当によかったのかはわからないが、智美との関係に終止符を打った。

私はまだまだプライドが高かった。私の本当の気持ちは智美が好きだったが、こうするしかなかった。ここで智美とよりを戻したりすると、また同じようなことが起こる可能性はある。そしてそれは繰り返されるかもしれない。私は裏切られたことが許せなかったわけではない。逆にこれから智美が裏切ってしまったと感じ続けることのほうが問題だった。

智美は賢二が留学してからというもの、淋しさゆえに遊び人の和実と街中をフラフラしていた。ナンパされた数人の男性に話を聴いてもらったり、癒されようとしていた。しかし、智美の話を真剣に聴くような男性はおらず、体だけの関係で終わっていた。そんなことを繰り返しているうちに智美も自分自身を見失っていたようだ。そんな中、裕彦達にナンパされて私と出会うことになったのだ。