このストーリーは70%くらい実話ですが、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。
婚約者と別れて3ヶ月経った9月の下旬、私は愛子という女と頻繁に毎晩電話するようになっていた。この愛子という女の子との出会いはあるアーティストのファンサイトのチャットで知り合った。当時、愛子は四国の愛媛県に住む15歳の中学3年生であった。私はそんな愛子と1度はファンサイトの集まりで会って以来、お互いの趣味やお互いの話をしていると時間を忘れるほど楽しかったのだ。婚約者と別れて以来、私はもう恋愛も結婚も何もやる気を失っていたのだが、愛子とは話していて楽しいと思えた時かもしれない。当時26歳の私と15歳であった愛子に対して女性として何の意識もしなかったので自然に話ができたのであろう。
それからずっと話を続けていたある日、私は愛子に対して何かわからない感情になってきた。10歳も離れた年下の愛子に恋心を抱くわけがないと思っていた。しかし、愛子とずっと話をしていたかったし、電話する時間が楽しいのである。そんな感情を抱きながら愛子との会話が続いていたのだが、次第に”愛子を離したくない”という感情に耐えられなくなってきた。そのとき、私は愛子に恋心を抱いている事に気づいた。10歳も年下の中学3年生で、まだ婚約者に対する未練が消えたわけでもないのに、必死に否定しようとする自分との葛藤があった。もちろん自分の気持ちに素直になれなかったのもいえるだろう。
愛子のほうは、私に対しての恋愛感情を遠まわしに言っていたので彼女の気持ちはわかっていた。しかし、年の差を考えたり婚約者のことを考えていたりしていたので、私は愛子を避けたり、時には電話をすぐ切ったりして逃げていたのだ。私の感情は次第に耐えきれなくなってきた。そして、自分に素直になろう、一般常識や目先のことばかり考えないようにしようと思った。10月の中旬、私は愛子に「年の差があるけど、そんなの関係ない、付き合ってほしい」と告白した。愛子は喜んで「うん」と答えてくれた。それから二人の交際が始まったのである。
私は愛子が中学3年生で高校受験が控えていたことに、かなり気を遣っていた。恋愛に気をとられて受験に集中できていない事もわかっていたからである。また私の東京出張と重なり、さらなる遠距離になってしまう事も愛子の受験にとっては好都合であると考えた。東京出張した私は仕事に追われていた。お互いに一番重要な時期だったので、私は愛子との電話をしばらく控えることにした。つまり、音信不通に近い形で、電話やメールを11月~1月の後半までできる限り控えるようにしていた。実はその間、私にはまだ年の差が心に引っかかっていた。高校受験や私の仕事の悩みなど、お互いに本当に分かり合えるのだろうか。そんな話をしても愛子には理解できないのではないだろうか、お互いに辛くなってくるのではないかと常に考えていた。
愛子とのメールや電話があまりにも少なく、クリスマスにも連絡しなかったことで、私が急に冷たくなった感じになった不安と苛立ちが愛子に募り始めた。そんな日々が続いた1月下旬のある日、私と愛子は大喧嘩になった。私は受験のことで愛子に気を遣っていたこと、仕事で悩みがあったことを正直に話した。すると愛子は「わからなくないけど、私の気持ちを無視した行動になっている」と言うのだ。私は別に愛子の気持ちを無視していたわけでなく、お互いに頑張らないといけない時期であると説明した。しかし愛子は受験の事で不安になってることとか辛くなってる事とか、そういう話を聞いて欲しかったようだ。しかし愛子と電話をすると何時間でも話してしまうことを言うと「だからといって冷たくされる理由がわからない」と愛子は言う。続けて愛子は「本当に私のことが好きなの?」と聞いてきた。私の愛子に対する気持ちに嘘はないとハッキリと答えたが、愛子は自分の気持ちがわからなくなってきたと言ってきたのだ。そして愛子は「しばらく考えさせてほしい」と言って電話を切った。
私は愛子に対してのやり方が間違えていたのだろうか、年齢の差が原因なのだろうか、本当に愛子の事が好きなのだろうか、私自身も疑問がでてきていた。それから1週間が過ぎたある日、愛子の同級生で香織という女の子から電話がかかってきた。どうやら電話の横に愛子がいるらしい。まず愛子のことを本気で好きなのかという質問からはじまった。私は「正直わからなくなってきた」、「一緒に話していて楽しいと思う」、「年の差や受験のこと、仕事の事を考えてしまう」と話した。すると香織は「一緒に話していて楽しいってことは愛子の事が好きってことじゃないんですか?」と言ってきた。しかし私はお互いに生活が違うから理解しあえるか心配であると答えた。香織は「歳の差なんて関係なく深く考えすぎている」、「一番大切なのはお互いの気持ちじゃないですか」と言うのだ。そう、私は中学3年生である香織から忘れていた自分の気持ちに気づかされたのだ。そして愛子はどうやら部活の推薦で高校に入ることができたらしい。愛子はバドミントン部のキャプテンをしていて成績もそれなりによかったらしい。私は愛子と一緒にいて楽しいし好きという感情を忘れていたことを香織に伝えた。すると愛子も私のことを本気で好きだと言ってくれているようだ。愛子に電話を代わってもらい、私は愛子に今までのことを謝った。愛子も少感情的になってしまってごめんなさいと謝ってきた。これで受験の問題も解決してお互いの気持ちがハッキリした。私は愛子に「ずっと一緒にいよう」と言って「うん」と答えてその電話は終わった。
それから愛子は高校へ入学し、私は東京勤務が続いていた。そして、二人は毎晩のように楽しく電話で話したり、ときどき大阪で逢ったりしていた。
ところが、4月の下旬くらいから愛子からの連絡がなくなってきた。メールの返事も適当な感じで、電話をしてもすぐに終わるようになってきた。愛子は入学したてのクラブ活動が忙しくなってきたようだ。部活が終わって家に帰ってきても疲れてすぐに寝てしまうぐらいハードな練習だったそうだ。そういう状態が続く中、前と同じような音信不通に近い状態になった。そして、5月のゴールデンウイーク中に愛子から電話がかかってきた。 愛子は話がしたい、逢いたい、でも部活も続けたい、そういうことで悩んでいたようだ。そして一番の悩みは遠距離で好きなのに逢えないのが辛いらしい。私は部活が落ち着くまで待つと言ったのだが、愛子にとってこんな中途半端な状態が耐えられないらしい。愛子は「辛くて耐えられないからもう終わりにしたい」と言った。私は「お互いに気持ちがあるのに終わりにするという意味がわからない」と言ったが「ごめんなさい、さようなら」という愛子の一言で電話が切られた。
これで愛子との恋愛の幕は閉じた。変な恋愛の終わり方ではあったが、今の私にはこの時の愛子の気持ちがよくわかる。そして、私はこの恋愛で知ったのは、本当に恋愛に歳の差なんて関係がないことを知らされたと思う。歳の差、世間の目、社会の常識、しかしそんなことより恋愛、人間関係で大切なのはお互いの信頼関係や心の繋がりだということである。愛子の友達である香織が私に言ってたことがまさにそうなのかもしれない。愛に歳の差なんて関係ない、それは心の繋がり、信頼関係こそ恋愛、人間関係に一番必要なものであるのだからと思う。そして、まさに私と愛子は楽しい時間を過ごしているうちに信頼関係を築き、心も繋がっていたのだと思う。
それから数年経ってから愛子からは連絡があったり、時には私から連絡したりしている。ある日、私が愛子に「もっと恋愛経験を積んでから、またお互いに付き合う事になったら、今度はうまくいくかも」と言うと、愛子は「そうかもね」と笑顔で答えている。後々考えてみると、今回の恋愛はお互いにいい経験になったのだろうと思う。現在、愛子が大学を卒業して就職した後、付き合っていた恋人と結婚して幸せにやっているようだ。